恋のお試し期間



「何時から居たんだ?早いな」
「矢田さんに変な報告されるわけにはいかないんで。はい切符」
「ご苦労さん」
「コーヒー」
「気が利くな」
「お菓子」
「はあ?お前が食え」
「あとお菓子」
「まだあんのか」
「そしてお菓子」
「買いすぎだ馬鹿」

矢田が駅に向かうと既に準備万端の里真がいた。
女子だからか1泊なのに大き目のカバン。
彼女がいつも以上にテンパっているように見えるのは朝早かったからかそれとも。

時間が来て席につく。里真はカバンからおにぎりを取り出す。

「朝食べる時間なくて」
「俺も」
「あげません」
「冷たい女だな」
「コーヒーはホットにしてあります」
「そういう問題かよ。…いい、俺だって美穂子に飯もらってる」
「彼女の部屋にお泊りだったんですね?ひゅーひゅー」
「どつくぞ」
「……」

おにぎりを無言で食べる里真。
美穂子からもらったサンドイッチを食べる矢田。
無言の時間は延々と続くようだった。


「資料の整理は万全みたいだな。当然だが企画内容も頭にいれとけよ」
「はい」
「何時もみたいにうろたえねえな」
「…少しは慣れてきましたから」
「あっそ」

何も話題がなくてただ窓からの景色をながめていた里真。
唐突に矢田に仕事の指示をされ持ってきたものを見せる。
怒られるかと緊張したがどうやらそれでよかったらしい。
ホッとする。隣では矢田が真剣な顔で資料とにらめっこ。

「……」

今頃彼は何をしているだろう。

休みだと言っていたから部屋に居るだろうか。
それとも気分転換に出かけたかな。

電話したい。

それかメールして何してるのって聞いてみたい。

でももうすぐ電車から降りなければならない。
そしてそのまま荷物を預けて取引先へ行く予定。

「日野」
「はい」
「はいじゃねえ。降りるぞ」
「え?!あ!はい!」

ぼんやりしていたらもう到着駅。慌てて荷物をもって電車を降りる。


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