恋のお試し期間



「電話しとけ」
「え!で、でも。これから仕事なのに…いいんですか?」
「はあ?何勘違いしてんだ会社にだよ。連絡しろっていったんだ」
「あ。はい。すいません」

ですよね、そんな訳ないですよね。

ちょっと顔を赤らめながらも会社に連絡をする里真。

もう目的地は目の前なのだから浮ついた気持ちは捨てよう。
気を引き締めて仕事にかかる。
何度目かの緊張感だったけれどやはり何度やっても矢田や
ほかの営業さんのように胸ははれない。

こっちはそんな前へ前へ出る必要もないのだし。



「はい。無事に終わりました。後は明日もう一箇所寄って書類をもらうだけで終了です」
『お疲れさま。大変だったね。今はもうホテルだよね』
「ホテルっていうか。ビジネスで質素なもんです。寝るだけだからいいけど」

夜。ベッドに座りすぐに携帯を握りしめる。
3コールもしないうちに佐伯は出てくれた。

『うん。それがいい。疲れてる時は早く寝る事』
「…慶吾さんに会いたいな」
『じゃあ、行こうかな。教えてくれたら車で行くけど』
「車じゃ遠いですから。明日は直帰していいって話なので。
お昼くらいになると思うんですけど帰ったらすぐ行きます」
『うん。まってる』
「…慶吾さんは今日は何してました?」
『何時もと変わらないよ。部屋の掃除をして洗濯をして。買い物をして。
そうそう、里真がいつお泊りしてもいいように歯ブラシとか買ってきた』
「そんな。すいません買ってもらって」
『下着とかもって思ったけどそれはやっぱり止めた』
「はは。…今度一緒に買いに行きましょう」
『いいけど。俺の趣味押し付けちゃうかもよ』
「慶吾さんの趣味?」
『お楽しみで。じゃあ、疲れてるでしょう?ちゃんと鍵を閉めて寝るんだよ』
「はい。お休みなさい」
『お休み』

携帯を仕舞いベッドに寝転ぶ。彼の声を聴いて幸せな気分。
もうこのまま寝てしまおう。電気を消してないけど構うものか。




「飲むだろ。来いよ」
「いいです寝たいです」
「お前まだ9時だぞ?小学生か」
「……おごり?」
「前みたいに馬鹿食いはすんなよ」

もう眠るという間際部屋を強くノックする音。

なんとなくそんな気がしてしぶしぶ開けたらやはり矢田。
飲みに行こうというけれど彼の方が疲れているはずでは。
でもちょうどお腹も空いていたし持ってきたお菓子も食べた。
9時以降は体に悪いと思いつつついていく。


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