恋のお試し期間


「おはようございます」
「おはよう」

朝。目を覚ますとまだお隣は寝ていたので、
これはチャンスと里真は体を起こし佐伯にモーニングコールをしてみた。
ゆっくりを目を開けて、里真を確認して微笑む彼は寝起きでも素敵。

「……」
「ん。…なに?…俺の顔、何かついてる?」

じっと見つめていたら佐伯は不思議そうに自分の顔を触って確認。

「いえ。今日もかっこいいなあと」
「里真ちゃんは可愛い。だからもう見ないで恥ずかしいから」
「よし。じゃあ朝ごはん作」
「るから、君は待機」
「……あ。二人で作る」
「待機」

いくらイケメンでも寝起きを見つめるのはあまりよろしくないようで、
ベッドから出て行った佐伯に続いて里真も出て身支度を整える。
まだ早い時間、ゆっくりと朝食を取りながら語り合えるだろう。

「慶吾さん!ここの温泉旅館すごいですよ!」

テレビをぼんやり眺めていた里真が興奮気味に台所へやってきた。
佐伯は火を止めて一緒に見に行く。よほど素敵な旅館なのだろう。

「本当だ。綺麗だし、部屋にも露天風呂がついてるなんていいね」
「今ならカニ食べ放題プランですよ!カニ!」
「……あ。そっち?」

どうやら旅館云々でなく、ご馳走に目がいったらしい。

「ここにしません?」
「俺はいいよ。里真の好きな所へ行こう」
「……じゃ。じゃあ。じゃあ電話しちゃおう!」

電話番号をメモしようと必至に携帯で試行錯誤する里真を他所に
佐伯は苦笑しながら台所へ戻り朝食の準備を続ける。

「電話番号控えた?」
「はい。でも」
「なに?俺はいいよ?」
「だって。せっかく痩せたのにカニ食べ放題とか馬鹿だなって…」
「え。今更?」
「慶吾さん…」
「はは、うそうそ。俺は気にしないって。いいよカニ好きだし食べよう」

メモしてからふと我に返ったらしい、しょんぼりと落ち込んでいる里真。
佐伯はテーブルに料理を並べながら聞いていてつい吹き出した。
それがショックだったようでちょっと涙目の彼女。

「……でも」
「旅行で君を口説くと決めてるんだ。出来るだけ里真にはいい気分で居て欲しい。
だから、カニでもなんでも好きなだけ食べられる場所へ行こう」
「それは嬉しいお誘いですけど。でも、私本当にすぐ太るし。今でも微妙に」

佐伯は口元は微笑みつつ涙目で言い訳を垂れ流す里真を抱き寄せおでこにキスをする。

「俺は昔から里真が好きなんだ。何なら戻ってくれてもいいんだよ?」
「えぇ」
「毎日君の好きなものを作ってあげようか?食事も、おやつも、飲み物も全部」
「だ。だめ。それ絶対だめ」

そんなご馳走尽くしなんて、リバウンドどころじゃなくなる。

「じゃあ我慢なんかしないで、ふたりで行こうね」
「…はい」
「俺としては露天風呂が楽しみ」
「へ、変なこと」
「考えてますよ?俺も男ですし、相手は愛しい彼女さんですからね?」
「……っ…もぅう」
「はい。じゃあ、朝ご飯をたべよう。しっかりとね?」
「わ。わあ。大盛り」
「里真ちゃんのお腹の音が聞こえたので、足りない?」
「い、いじわるっ」


笑う佐伯。怒ったわりに大盛りでもぺろりと平らげる里真。

今はまだ恋人同士、でも何時かは

毎日がこんな風に笑ってすぎるように何時かはなるのだろうか。



「さて。次のお試しにランクアップするには何処を責めようかな」
「……っ!?」
「まあ、旅館の部屋を確認してから決めようかな。ね?里真」
「え。か、壁の薄さとか?あの、悲鳴を上げるような事はしないでくださいね…?」
「楽しい悲鳴ならいいよね」
「……たのしい?」

里真は一抹の不安を感じながら、でも内心ではドキドキしている。

佐伯はそれを分かっているのか笑って優しく、ときどきイジワル。


お試しから始まった恋は


ゆっくりゆっくりと


今確実に、愛になる。





「ちなみに私が主導権を握るというのは」
「どうぞなんなりと命令してください。何でもやります」
「……冗談です」
「顔真っ赤。何想像したの?」





かな?



【終わり】

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