恋のお試し期間
ぱんけーき
「どうしたの里真。あんたの好きなケーキだよ?お腹でも痛いの?」
「…私だって。私だってケーキくらい作れるって。…彼氏に言ったの」
「ほう」
「そっかーそうだねー。で、会話を強制的に終了させられた」
「…はあ。そうなの」
それはもうどんな女の子でもコロっと落ちそうなくらいの爽やかな笑みを浮かべて。
明らかに里真の後に続く言葉を言わせないようにしている。
休日、友人と買い物をした帰りに立ち寄ったカフェ。
ボリューム満点のいちごパフェも魅力的ではあったものの、ケーキセットにしようと
友人がいうのでそれに乗って注文した。彼女はチョコケーキ。里真はいちごショート。
ケーキが来るなり何か思い出したように苦々しい顔をする里真。
「つ、作ってやる。こうなったら実力行使で作ってやる」
「あんた一体過去に何をつくりだしたの?」
「そんな変なものは。…ただ、その。慌ててお皿割っちゃって」
「あー…」
「そ、そんな盛大にやらかしたわけじゃないから。…でも、それ以来私は全く信頼がない」
あと、ちょっぴり怪我もしてしまって、あの時の佐伯はとても怖い顔をしていた。
それからは料理はもちろん駄目。準備もお皿を触るのも駄目。
最近はお皿を洗うことは出来るようになったものの、片付けるのは彼。
お手伝いなど出来ずもっぱら食べるだけ。何らアピールすべき場所がない。
「失ったものは取り戻すしかない。そうよ里真。頑張って焼きなさい」
「う、うん。…ど、どんなのがいいかな?やっぱりショートケー」
「ホットケーキ」
「そ、そんな混ぜて焼いたらいいだけとか!」
「大丈夫。パンケーキってことにしてクリームを盛りなさい。それでなんとかなる」
「……なるほど。パンケーキ。見た目豪華だもんね。可愛いし」
「フルーツもいれときなさい。適当に」
友人の後押しを得て里真は帰り際本屋に立ち寄ってレシピ本を購入。
ネットで検索したほうが楽だけど、ここは気分ということで。
あと材料も購入。やはり彼に作るわけだから高くて質のいいものを。
「でもよく考えたらこれ作って持っていく間にクリームどろどろになるよね?」
「本当に乗せられやすい馬鹿だよな」
「どうしよう」
「俺、もう食えないぞ。4枚も食ったんだから。…佐伯さんにはクリームなしにしたら?」
さっそく帰るなり調理に取り掛かりクリームとフルーツを盛って弟に食べさせる。
味は悪くなる要因はないのだから問題ないと思いつつも。念の為に毒味。
だが肝心の運搬方法について今更ながらどうしたものかと悩みだした。
やっぱり出来たてがいい。
けど、彼の部屋で彼の前では絶対にフライパンなんて持てない。
よってケーキは焼いていくことになる。肝心なのはクリーム。と。フルーツ。
「だって。それじゃただのホットケーキじゃない」
「ホットケーキだろ」
「パンケーキなの!」
「……あっそ。ま。持ってってそこで盛りつけるしか無いよな」
「そっか。何かそれだと驚きがないけど。仕方ないね」
「…こんなもんに驚きも何も無いと思うけど」
「は?」
「…ごちそうさま」
練習もしたし対策は十分に練った。そこまで練るほどの策ではないけれど。
これで少しは料理を任せても大丈夫だと分かってもらえると嬉しいのだが。
頭のなかで何度もシミュレートという名の妄想をしている間に眠りについた。