恋のお試し期間


「里真ちゃん。何かいいことあった?」
「え?」
「だって。ずっとニコニコしてるからさ」
「それは。その。えへへへ」

待ちに待った日。

作るならこの日と決めた祭日。会社はお休み。
もちろん、それは彼のお店には関係なくむしろ人が多くて忙しいわけだが。
事前にメールをして先に部屋で待っていることにした。

その前に鍵だけ受け取りに開店準備中のお店に立ち寄る。

「昼で終わるから。待っててね」
「え。でも」
「君が部屋で待っててくれるんだから。集中できないよ」
「慶吾さん」
「あと、冷蔵庫に君のお昼用意して置いたから。温めて食べてね。あ。電子レンジでね」
「そこまで?…ごめんなさい。私」
「こっちこそごめん。一緒に食べたかったけど。…待っててね。すぐ行くから」

一時の別れを惜しみながらも開店時間が近づき里真は店を出ると
すでに待っているらしき人がちらほら見える。やはり人気のお店だ。

気分晴れやかに途中で花なんかも買ってみたりして彼氏の部屋へ。
何時来ても無駄なものがない、整頓されたお部屋。

「……うわあ」

そこに明らかに場違いな異物感満載の里真の荷物たち。

今度片付けに行くので適当に置いといてください!と言ったのに
わざわざ棚を買ってきてくれてなおかつきちんと整理整頓してくれている。
明らかに使ってない美顔器とか。脱毛機とか。痩せるクリームとか。
今度、といいながら実はもう1ヶ月ほど放置していたので余計に心が痛い。

「で、でも。でも。今回は大丈夫。これでちょっとは挽回できるもの」

それは見ないようにして台所へ向かい盛り付け作業にかかる。

まえに、お昼にする。

冷蔵庫を開けると彼が用意してくれた里真の好きなものだけが入ったランチセット。
感謝しながらも電子レンジに入れて温める。何かもう、この時点で負けている気が。

というか、これって完全にお子様扱いなんじゃないですか?年下ではあるけど。

「きのせい。きのせい。プロだもん。相手プロだもん」

自分でもよくわからない謎の言い訳をしてランチを堪能。
お茶も置いてあったので遠慮なく頂いて。さあ今度こそ。


でもちょっと満腹になると眠いな……ぁ。




「…ただいま里真。可愛い寝顔。でも、ソファよりベッドで寝ない?」
「………あ…」

あれ?

なんで私ソファで寝てる?

何で慶吾さんここに居る?あれ?

「ただいま」


あ。もう4時だ。

「あ。あ。……あああああああ!」
「な、なに?なに?里真?」

パニックになって叫んでじたばたして最終的に膝を抱えて。

「……ばか」
「どう、したの?何か悪い夢でもみた?」

佐伯は心配そうに里真を見つめているけれど。

「慶吾さん。私食べてほしいものがあるの」
「そうなの?何かな」
「座ってて」

ここはもう突っ切るしか無い。もはややけくそとも思える勢いで立ち上がり、
カバンをもって台所へ。佐伯は言われた通りに大人しくソファに座っている。
持参した可愛らしいお皿にのったパンケーキ。
冷蔵庫に入れておいたクリームを持ってきたハンドミキサーで滑らかに。

そして忘れちゃいけないフルーツ。

「……えっと。これ、は?」

男だしこれくらいは食べるだろうと

クリームもフルーツも盛りに盛ってドスンと佐伯の前に置いた。


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