恋のお試し期間


「…やけど、しなかった?」

窓際の席に座ってソワソワする里真の手を優しく掴んで見つめる佐伯。

「え?ええ。しませんよ?」
「髪にクリームついてる」
「ええ。は、早く言ってくださいよ。ちょっと見てきます」
「いいよ。もう取れた」
「……」
「クリームをハンドミキサーで泡立てる時は飛び跳ねるから注意しようね。
力任せにガリガリやるのは厳禁」
「…はい」
「フルーツは水気を取ろう。せっかくのクリームもケーキも水っぽくなってしまう」
「……はい」

あ。やばい、これダメ出しされてる。

「あとちょっとくらいは彩りも考えたほうがいいかな」
「……」

まだ何かありますか?

里真は不安そうな顔で佐伯を見つめる。

やはりプロ相手に手作りなんてしないほうが良かったろうか。
思いの外手厳しい。
いや、慌てて作ったから何時も以上に雑だったのかもしれない。

優しいから言わないだけで本当は失笑ものだったのかも。

やらなきゃよかったかなぁ。

ちょっと涙目。

「別に怒ってるわけじゃないよ。次に生かしてほしいと思っただけ」
「はい。次はきっと」
「盛り付け頑張ろうね」

え。もりつけ?

あれ?

これはもしかしてクリームはいいけどケーキを焼くのはダメな感じか?

さりげなく釘を刺された気がする。その間にも料理が運ばれてきて
聞き返すことも反論も何も出来ないままに食事を終わらせる。



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