恋のお試し期間
「ねえ里真。最近弁当ばっかりだけど、節約中?」
「ダイエット中」
「そうなの」
「だから気にせず行ってらっしゃい」
「はーい」
今まではお弁当もあるけどほとんどが同僚との外ランチだった里真。
だけどここの所ずっと弁当が定番。それもかなり質素な中身。
それでもまだ足りない、もっと何か始めないと。
美容のたぐいに鈍感な母にまで言われたら本当に不味い。
私はまた太ってきている。
弟の言うようにこのまま元に戻ったら彼に嫌われるに違いない。
「そんだけしか食べてないからフラフラするんだろ」
「あ。矢田さん」
数名を残しほぼ皆さん出払ったオフィス。
里真が味気ない弁当をかみ締めて食べていたら矢田が顔を出す。
差し入れといってコンビニの菓子パンを机にポンと置いてくれた。
嬉しいけどちょっと困る。でもきっと誘惑に負けて食べてしまうだろう。
「ゴゴイチでこれ処理頼むわ」
「はいはい」
書類を渡されてそれを汚さないように先に棚へ移動。
「今夜さ、大学の仲間と一緒に飲むけどお前も来るか」
「え。何で私まで誘ってくれるんですか?」
「出会いの提供。ってのは冗談だけど、美穂子も呼んだんだけどさ。
あいつ女1人じゃ心細いって言い出して」
「可愛い彼女の盾に私を抜擢する当たりさすが営業の鬼ですね」
「そうそう。タダで飯が食えて酒も飲める素晴らしい盾だ。どうだ?」
「残念でしたね。今ダイエット中なんで」
「無駄な努力はストレスになるぞ」
「相変わらず酷いですね」
「お前の為に言ってるんだろ」
からかうように笑いながらもそれ以上強引には誘わず、
矢田はまた今度飲もうと言って去っていった。
飲みに誘われるのはこれが始めてではない。
「何がお前のためだよ。まったく意地悪なんだからなぁ」
初めて彼に誘われた時はもしかしてそういう展開が?とドキドキしたけれど
会社を一緒に出たらなんと彼女が待っていて、その友人も居て。仲良く4人で飲み会。
でも理真は他2人を知らないからあまり面白くない。愛想笑いでやり過ごした。
なんて昔の苦い思い出が甦る。
「……このパン美味しいな。高そうだし。……だめだめだめ!お代わりしたら意味ない!」
愚痴りながらも買ってもらったパンを齧る。
やっぱり我慢しないで満腹って幸せ。心から思った。