恋のお試し期間
彼の部屋と甘い恋
「えっと。…うん、…それで。里真は何処へ行く予定なのかな?」
「え。もう到着してるんですが」
真顔で言うと佐伯は笑いを堪えるような顔でそうだねと言って中へいれてくれた。
休日の朝。
といっても信じられないことに寝坊したから時刻は10時。微妙な時間である。
慌てたから頭はボサボサだし服装もヨレている。何より驚きなのはリュック。
それも可愛いものではなくて、父が趣味でやっている登山用の頑丈なゴツいヤツ。
弟と母に止めておけと散々言われたがこれしかないと言い張って背負った。
「登山でも行くのかと思ったよ」
「あ。これ?お父さんが山登るのによくつかってます」
「…ほ、本当に登山用なんだね…へぇ」
若干引いている佐伯だが構わず里真はリュックを台所の傍に置いた。
広く無駄なものがなくて、里真が勝手に想像した通りのお部屋だった。
彼のセンスのよさなのかシンプルなのに置いているものが全部高そうに見える。
アロマでも焚いているのかいい香さえして、里真の部屋とは雲泥の差。
そこにお父さんの登山用リュックで来てしまったという違和感は
初めて来る彼の部屋という緊張感と寝坊によってテンパっている里真には分からない。
「これ沢山入るししっかりしてるから材料こぼれないかなって思って」
「え?」
「もう粗方下準備してきたんです。で。あとは鍋を借りて煮込むだけという」
ダシも実は開いたペットボトルに入れて持ってきているという。
それで昨日は遅くなって寝坊した。なんて恥かしいから言えない。
掃除の行き届いた綺麗な台所に立つと汚しそうで緊張する。
「そうなんだ。ごめんね、そんな手間かけさせて」
「私手際悪いから。あ。でも味は大丈夫。お母さんに指導してもらってるから」
「そっか。そこまでしちゃったんだ。その役目を俺がするはずだったのにな」
「え」
「里真だけに料理作らせる訳ないよ。あ。腕を信じてない訳じゃないからね。
2人で仲良く料理なんて距離を縮めるにはもってこいじゃない?」
「そ、そう、ですね」
そっか。そういう利用法もあるのか。しまった。
てっきり里真の料理を期待して、とかだと思って。焦る。
私これ絶対滑ってるよね?
女子らしさを発揮しようとしてアピールしようとして
おもいっきり失敗してるよね?
もうやだ帰りたい……。