恋のお試し期間



「ん…っ…あ…あ。だ。…だめっ」

また頭がぼんやりしてきた所で佐伯の手が里真のスカートの中へ。
でもそこは無法地帯の荒れ放題の酷い有様の場所。

幻滅される!

里真は咄嗟に身を引いて彼の手を拒む。

「ごめん。嫌、だったね」
「……その」
「お試しの分際でそういう事するなってね。…はは」

佐伯は苦笑して立ち上がった。仕事の電話をしてくると言って。
でもきっとそれは不安そうな里真を怖がらせない為で。自分自身もクールダウンする為。
あんなに私を求めてくれた人なのだから拒否しなくてもよかったのにと思う自分と
幻滅されたくないと思う自分でせめぎあう。

この無駄毛と贅肉が憎たらしい。自業自得だけど。



「あと5キロ痩せたら…な」
「どうなるの?」
「え!あ!いえ!」

いつの間にか後ろに居た佐伯にビクっとする。

「さて。里真。食事をしたら映画でも行こうか。部屋に居たら襲いそうだし」
「え」
「それで君に嫌われたら、今まで我慢して来た事が無意味になるからね」
「……」
「でももう1度だけキスしていい?」
「…はい」
「ありがとう」

位置を変えず後ろから座っている里真に顔を寄せてキスする。
里真も彼の頭にそっと手を添えて撫でてやる。優しいキス。
それから里真の作った肉じゃがでお昼を済ませて外出。

「よし出発」
「はいストップ。俺たち登山行かないよね?映画行くんでしょう?
だったらそれは置いて行く」
「だ、だって。カバンこれしか」
「置いてけばいいよ。誰も取ったりしないって」

登山リュックで行こうとしたらやっぱりストップをかけられた。

「でも財布とか携帯とか」
「デートなのに君に出させるなんてする訳ないでしょう?
君の手離さないから携帯もいらない。…余計な電話とかうざったいし」
「え?」
「とにかく。それは置いて行くこと」
「分かりました。じゃあ、置いていきます」

財布も携帯も持たず外へ出るのは心配だけど背負ったままでは
彼の待つ玄関を出られそうにないので渋々置いてくる。

「はい。良く出来ました」
「不安なので携帯は持って来ました」
「そうなんだ。でもマナーモードにしてくれてるんだよね」
「してます」
「じゃ。いいか。行こう。手を繋いで」

あまりに自然に言うからさっと手を出して手を繋いでしまう。
外に出て他の階の人とすれ違って恥かしいと思っても遅い。
1度繋いだ手は離してもらえそうにないから。

「ホラーは嫌」
「里真は昔から怖いの嫌いだからね。その辺は分かってるよ」
「……5キロ」
「ん?なに?」
「いえ。3キロ痩せたら…慶吾さんの、…正式な…彼女に、……なりたいな…なんて」
「最後の方が凄く声小さいんだけど。でも。うん。わかった」
「……そういう感じでよろしくお願します」
「こちらこそ。じゃあ、里真ちゃんにはがんばってもらわないといけないな」
「うん。がん…ばる」


里真も離れないようにちょっとキツめに握り返した。


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