恋のお試し期間




「おお。何年経ってもやっぱイケメン過ぎだわ佐伯さん」
「そりゃそうだよ、女に困った事の無い勝ち組なんだからさ」
「馬鹿言ってないで中入るわよ。ほら、里真も」
「で、でもさ。やっぱ別の」
「そんな硬くなる事ないって。ほらほら行くよ」

ああ、何でそんなお気楽なの?
こっちはそんな気楽なものじゃないのに。
ハラハラしている里真を他所に皆ズカズカ中へ入る。

バイト君が対応して奥の広いスペースに案内された。
メニューを見ながらハラハラドキドキしてくる里真。

「いらっしゃいませ」

里真を見つけたのかそれとも声をかけにきてくれたのか
ついに佐伯が来た。来てしまった。
里真は内心来なくていいのに!と心のなかで恨めしくなるけれど。

「こんばんは。皆で来ちゃいました」
「二次会って感じだね。でも、皆ほどほどに」
「佐伯さんって今彼女とか」
「おい松谷」
「だってほら。なあ」

チラリと視線を里真に向ける松谷。
どうやら里真の為に聞いてやろうという魂胆らしい。
そんなの聞いてくれなくてもいいのに、やめてほしいのに。

ここで里真と付き合ってます!なんて爽やかな笑顔で言われたら

恥ずかしさのあまり泣きながら走って逃げる自信がある。


「彼女?……、は、居ないけど」
「そ、そうっすか。へえ!」
「何でお前が嬉しそうなんだよキモイ」

ワイワしながらもメニューを決めると佐伯は優しい笑みを向け
ごゆっくりと、と言って去っていく。

「…良かったんじゃない?居ないってさ」
「うん…」

三波の言葉に笑みで返すけれど里真の心境は複雑だった。
お試し中だからハッキリ彼女がいるといわなかったのか、
それとも彼らの前で里真とお試しでも付き合っていると思われたくないからか。
ネガティブになりがちな里真の心はどんどんマイナスの方へ傾く。

あれだけ好きって言ってくれても

キスしてくれても、私って人に紹介できないレベル?



「なあ、ここだけの話し。三波って佐伯さんと付き合ってたって噂あったよな」
「あったあった」
「あいつ大人っぽいし美人だし。日野には悪いけど確かに佐伯さんと合いそうだよな」
「それ言ったらおしまいだろ。日野は日野でいい所あんだからさ」
「性格は保障できるんだけどな」
「明らかにアイツには無理めの男だけど応援してやろうぜ。駄目ならまた飲み会してさ」
「お前好きだったもんなあ日野のこと」
「昔の事掘り返すなよ」

里真がトイレから戻ってくるとそんな話をしている男子。
どうやら時間差で三波も席を立っていたようで彼女の姿もない。
やはり三波は佐伯と付き合っていてそのほうが「らしい」みたいだ。
自分なんかよりも相応しい。ちょっと切なくなってあと席に戻り辛い。

「あ」

踵を返してトイレに戻ろうとしたら三波と佐伯が何か話している所が見えた。
別段楽しそうに談笑しているようには見えないけれど。でも。
やっぱり事前に情報を得ていたせいかどうみても仲良さげに見えてしまって。
どっちにもいけず里真は真ん中のところでぽつん。

< 28 / 137 >

この作品をシェア

pagetop