恋のお試し期間



彼女が居る

皆の間ででは居ないって言ったのに

三波の前では居るって言った。

それってもう元カノどころじゃないじゃない?

やっぱり騙されてた?都合のいい女扱い?


「気に触ったのなら謝るよ。本当にごめん」
「……」

三波の言葉に心が揺れ動いて怖くて心配でネガティブ一直線で。
家に帰ってもベッドに入ってもぐっすりとは眠れなくて落ち着かなくて。

でももしかしたらそれは自分の事かもしれない

そう無理やり楽観的に思いこもうとしても我慢できなくて。
飲み会の翌日にさっそく彼のお店へ行って真偽を確かめる事にした。

「どうしたら許してくれる?何でもするから」
「……」

彼の返答によっては泣き崩れそうだから里真は5分だけでいいからと
店の裏に来て貰う。ここでなら何があってもそのまま帰れるし
遊ばれたと分かっても周囲にバレる恥かしさは少ない。

ただ、ショックで暫くは何も出来そうにないけど。

「里真。声聴かせて。不安だよ。…お願い。里真。里真」
「慶吾さん」

勇気を振り絞って三波から聞いた事は本当かと聞いてみた。
シラを切られたり言い訳でもされるかと思ったがすんなりと「言った」と彼は認めた。
またそれがショックで。

「やっと喋ってくれた。…ごめんね里真。俺が無神経な事したから」
「あの、…まあ、とにかく…離れてもらっていいですか」
「え。そ、そんなに怒ってる?」
「怒るとかじゃなくて。困るんです」

でもそれ以上に里真の置かれている状況は大変なもので。

「…分かった」

裏に来るなり里真を抱きしめてその髪に顔を埋めていた佐伯。
いくら裏といっても垣根の向こうには細い道があって人の通りも多少はあって。
さっき歩いているおじいさんと目があってお互いに気まずかった。
言われて渋々理真から離れる佐伯。でも手はギュッと握ったまま。

「私の事は、…やっぱり、…その、…アレですか」
「アレって?」
「……あ、…あそ、…び」

頭では言葉になるのに口に出そうとすると駄目だ泣きそう。

「泣きそうになるほど嫌だったんだね。ごめん、俺、調子に乗って」
「…良いわけないじゃないですか。……慶吾さんのばか」
「里真」

絶対無理だと思ってた男に愛されたつもりになって有頂天になってた自分。
とんだピエロ。口をへの字にしてマユを潜ませふて腐れる里真に困った顔の佐伯。
そろそろ彼をお店に戻さなければならない時間だ。里真はそっと手を離し。

「…彼女とお幸せに」

言葉とは裏腹にとても祝うような言い方ではなく投げつけるように言うと去る。
足早に。そこの角を曲がったら思いっきりダッシュして泣き喚いてやる。

「え。彼女?待って。待って里真。里…うわ。すごい走ってる」

佐伯が何かに気づいたように彼女の後を追いかけたら既に遠くに居た。


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