恋のお試し期間
「未練がましいけど、もう少し君と話がしたい」
「…今更」
「どうしたのその顔」
「もう!慶吾さんまで馬鹿にして!私はお笑い要員じゃないんですって!」
「お笑い?何の事?」
「え。あ。いえ。…顔の事はほっといてください」
「でも真っ赤だよ?」
「え」
「鼻が赤くなってる」
うそ。里真は慌ててかばんから手鏡を取り出してみる。
肌が白いから余計に分かりやすい赤鼻の里真。
泣いたのと矢田にぶつかった所為とどちらとも考えられる。
「…い、いいんです。どうせ。こんな顔です」
「痛いわけじゃないんだね。良かった」
「……」
「さっきの話しなんだけど」
「…いいですよもう」
儚い夢でした。すぐに踏ん切りはつかないけど何れは。
「俺は、君の事をあの子に言ったんだけど。里真、何か誤解してないかな」
「え」
「彼女って他に彼女が居るわけじゃないからね?当たり前だけど」
「…え。あ。ええ、そう、ですね」
「それで怒ってたんだよね?お試しの癖に彼氏気取りだって」
「え」
あれ。思ってたのと違う。焦る里真。
「彼女とお幸せにって言われて何の事か意味が分からなくて」
やっぱり彼は里真の事を三波にいったのか。
でも「お試し」だから名前は言わずに、ただ彼女が居るとだけ。
何故あの場では言わなくて彼女にだけ言ったのかは分からないが。
もしかしたらしつこく聞かれたのかもしれない。
「……わ。…分かってましたよ?もちろん。聞き違いじゃないですか」
悲しみが過ぎ去ったら今度は猛烈は恥ずかしさが襲ってきた。
どうしよう、勝手に思い込んで怒って泣いて走って逃げて転んで。
「そっか。よかった。あ。良くないか。まだ怒ってるよね…里真」
もうすっかり怒ってないけれど。申し訳なさそうにこちらを見つめる佐伯。
何か、何か言わなきゃ。
ごめんなさい?いや、それよりももっと。
もっと別のこと。
「あ、あの。…えっと。……あ、明日…明日、遊園地」
「え。行きたい…のかな?」
「…連れてってくれたら、いいです」
「ほんとに?いいの?勿論行くよ。明日朝迎えに行くね」
「はい」
「じゃあ、また明日。嬉しいよ里真」
「…はい」
苦笑いする里真。佐伯は仕事を抜けてきたからとまたお店に戻る。
なんてベタな誤解をしていたのだろう。それくらい自分に自信がなくて、
彼が何時誰を好きになってしまうか分からない不安が尽きない。
今更勘違いでしたとは言えずそのままで通す事にした。
「佐伯さんかわいそー」
「裕樹」
「佐伯さんの事弄んで楽しいか?何で素直に付き合ってやんないの?」
「そ、そういうわけじゃないんだよ。何かその、複雑な話が」
「一言付き合おうでいいじゃん。もったいぶる顔かよ」
「弟の台詞とは思えない酷さじゃないの」
「一般論を述べたまで」