恋のお試し期間
振り出しに戻る。



「風邪?」
「いえ」
「じゃあ、どうして?」
「風邪予防ですよ」

翌日の朝。雑誌を見ながら練習した目が大きく見えるばっちりメイクと
自分なりに綺麗めと思う服でキメた里真。当然の事ながら
登山用リュックなんて背負っていない。機能性は悪いが可愛いポーチ。

今までデートっぽいことはしたのにきちんとオシャレしてなかった。

でもこれでデートコーデは完璧。

のはずなのだが男性用の大きいマスクをつけて外に出た。
外で待っていた佐伯は驚いた顔。風邪ではないのならどうして。

「…そう、なんだ」
「はい」

佐伯は少し不服そうな顔をしながらも気を取り直しとめていた車に乗り込む。
車があるとバスや電車の混雑に疲れなくていい。
里真が家族で出かけるといつもは後部座席で何か食べてるかすぐ寝る。
けど今回はデート。眠気よりも緊張感の方が勝ってさっきから何となくソワソワ。

「ねえ、里真」
「何ですか」
「車の中くらいはマスク外さない?」
「え」
「駄目かな。俺風邪じゃないし。…いや、どうしてもってわけじゃないんだけど」
「じゃあ。このままでいいです」

里真の言葉に沈黙する佐伯。そのまま30分ほど特に会話も無く車は進み。

「やっぱり我慢できない。里真の顔が見たい」
「び、ビックリした。慶吾さんこそ何処か悪いのかと思った」

車が赤信号で止まったらいきなり此方を見て真顔で言ってきた。
ずっと塞ぎこんでいた佐伯。
昨日のこともあってやはりまだ尾を引いているのかと
里真も気を使って黙っていたのだが。

「可愛い」

驚きながらもこんな真面目に言われると渋々マスクを外す里真。
そこには未だに赤い鼻をしている顔。何時も以上に凄く不細工。
弟にも母にもそして普段は無口な父にまでマスクしていけと言われた。

「可愛くないです。ほら、前見て。…もうやだ」

酷い顔にすぐにマスクを戻し車も走り出す。佐伯はとりあえず今は満足したようだ。
月曜日もこのままだったらきっと朝矢田に思いっきり笑われるのだろう。
佐伯は笑ったりしないからいいけど、彼の場合は確実に笑うから嫌だ。

それから暫くして無事に目的地の遊園地に到着。


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