恋のお試し期間
車からおりて、入場券を買うのに並んで。ワクワクしながらゲートをくぐって
彼氏(仮)とやってきましたデートの定番遊園地。
家族や友人と最後に行ったのはたぶんまだ学生だった頃の話だ。
懐かしくて速攻でポップコーンなど食べ物屋に走りこみそうになるのをこらえる。
今日はデート。
「どれに乗る?俺何でもいけるよ。メリーゴーランドでもいいよ」
「そんなメルヘンする歳じゃないですって。えっと。じゃあ、コーヒーカップ!」
「え?あ。うん。…そっちはメルヘンじゃないんだね」
「駄目でした?」
「まさか。さ、行こう」
昔、父親に素で置き去りにされてからお化け屋敷はダメになって、
それ以外なら絶叫系も大丈夫な里真。手を繋いでアトラクションを楽しむ。
誤解していたことも三波との過去もすべて忘れて。今はただデートに集中。
本音を言えば特に遊園地で遊びたかったわけではくて、ただ思い付き。
だったのに面白くて笑ってばかり。やはり彼と一緒だからだろうか。
彼氏が出来たらこんなに世界が違ってくるの?
「やっぱり絶叫系はいいですね。思いっきり叫んじゃった」
「両手あげてたね」
「はい。やっぱり上げないと損するっていうか」
まるで子どものように絶叫を楽しむ里真の隣でそれを冷静に見ている佐伯。
君が楽しいなら自分も楽しいと笑っていた。
お昼も食べてパレードも見て。そろそろ帰る時間。
最後の休憩も兼ねて観覧車に乗る。
「楽しかった?」
「はい。とても」
「よかった。…君が笑ってくれてほんとよかった」
最初正面に座っていたのだが佐伯に隣に来てと言われてゆっくりと立ち上がったら
手を取られ優しく膝に座る形に落ち着く。そのまま逃がさないように抱きしめられた。
驚いたけれど気分がいいから素直にそのままで甘える里真。
「…あ」
そういえば昨日は泣いてたんだっけ。今更思い出す。
「本当に反省してるんだ。だから。…捨てないで欲しい」
「そんな風に言わないでください」
「いい?」
里真が頷くと佐伯はそっとマスクを外して唇にキスする。
何度となくされたせいか、最初はキスがあんなに恥かしかったのに
いつの間にか彼に触れられる時間が少しでも開くと寂しくなってしまった。
頬をやさしく掴まれて啄ばむように吸い付くようなキスを何度もする。
「昨日体重計に乗ったら1キロやせてました。あとちょっとです」
「無理はしないでいいからね」
「私、…慶吾さんとちゃんとお付き合いしたい。から。決めたんです。あと2キロ落とす」
「俺は気にしない」
「私がするんです」
キスの後、間近で見る佐伯の顔。
こんなカッコイイ彼に贅肉たぷたぷな彼女なんて酷すぎる。
これでまだ若いとか可愛げがあればいいがそれも期待できないときたら。
少しでも痩せて、綺麗……
綺麗になるとは思ってないからせめて清潔感が欲しいです神様。
「分かった。じゃあ、もう少しの間はお試し彼氏で居ますか」
「あの。私は、…どう、ですか?今のところ。その、試してみて」
「え。あ。ごめん。俺、すっかり君の事彼女だと思って。だから。あんな事言って」
「あ」
また変な空気。
「里真はほんと可愛くて素敵な女性だよ」
「そ、そうですか?」
「きっと身体の相性もいいよ。俺たち」
「へ、変な事言わないでください」
「君を抱きしめるたびに俺その気になるし。キスしたらほんと危ない」
「え」
密室。2人きり。彼の膝の上。そしてキス。すべて揃ってるんですが。
どうしようこんな所で?いや、まて。まって。色々と見えちゃいますけど?
でも求められたらどうしよう。その前にまだ痩せてもないし。
「そんな焦らないでいいよ。その気ない子を無理やり何てしないから」
「……」
「怖がらせたかった訳じゃないんだ。ただね。それくらい君が好きって
分かって欲しかっただけだから。そんな顔しないで。ごめん。席戻る?」
「…ううん。…ここでいいです」
「そっか」
「がんばって痩せなきゃ」
よかった、今すぐここでじゃないんだ。ほっとするようなそうでもないような。