恋のお試し期間



「里真の柔らかい身体、ほんと色っぽいのにな。誰かに取られないか心配なくらい」
「慶吾さん恥かしい」
「その顔凄く可愛いからもっと言ってもいい?」
「言わないで。言ったら怒る」
「じゃあ言わない。…ほんと柔らかくて甘そうで、美味しそうな里真」
「もう!」
「はははは」

鼻だけでなく顔を赤くして怒る里真に笑う佐伯。
観覧車はあっという間に地上に戻って2人は遊園地を後にする。
お土産に小さいヌイグルミを買ってもらった。
自分で買うと言ったのに。仮でもデートはデートだと。
おそろいにしようと言われて今カバンにつけた。可愛い。

「あ。また帰ってきた」
「いいでしょ別に。ほら、これ土産」
「いらないよ俺そういうの嫌いって知ってる癖に」
「あんたじゃなくて美玲ちゃんに。すきでしょこのリス」
「ああ。…サンキュ」

里真が家に帰ると何時もの愛想の無いお出迎えをする弟。
彼女が喜ぶ土産を渡すとちょっと喜んだ。分かりやすいヤツ。
部屋に戻ると佐伯からメールが来ていてすぐに返信する。


「よし。がんばって痩せるぞ!」
「それはいいけどさ。何で俺の部屋に居るの。マジで何でだよ」
「いやあ。実はバランスボールを捜しててね」
「またか。でもさ、流石にそんなもんここにある訳ねえよ。あったら怖いし」
「わかんないでしょ。えっとね。この辺とか……ほら!あった!」
「な、なんでだよ!俺の部屋は姉貴の物置かよ!」
「まあまあ。じゃあね。美玲ちゃんと仲良くしなさい」
「出てけ!」

少しの食事制限と運動で2キロくらいすぐだ。きっと。たぶん。恐らく。
佐伯にもその気持ちを伝えたしきっと彼も待ってくれるはず。
里真はバランスボールをしながらそんな事を考えて。



「おっ…おま…っ」
「うわあっし、しまったっ」

翌朝。マスクして会社に行ったらみんなに風邪?と心配されて。
そうなんですと笑いながらなんとかやり過ごしてたのに。
食事の時はそうは行かず。ひとり隅っこでコソコソ弁当を食べていたら
別の用事で来ていた矢田に不審がられガッツリ顔を見られた。

いくらコソコソしてるからってわざわざ顔を覗き込みに来るあたりこの人らしい。

「先週より酷い顔なってるとはやっぱお前神がかってるぞ。もちろん笑いの神な」
「ち、ちがうんです。これはちょっとした事故で」

考え事をしながらニヤニヤと調子に乗ってバランスボール乗ってたら転んで顔を強打。
治りかけてた赤鼻がさらに悪化して赤くなるという。コメディみたいな展開。
プルプルと肩を震わせて笑いを堪える矢田。

「見たかったなぁ。さぞかし愉快な事故なんだろうな」
「酷い」
「美穂子が心配してたけど元気そうでよかった」
「矢田さんにもご迷惑をおかけしました」
「気にするな。いつもの事だ」
「ほんと酷い」

意地悪な癖にその辺はやんわりとさりげなくフォローしてくれる人。
泣いている自分を気遣ってくれたのかななんて思って少し嬉しかったのに。
男女関係なくだいたい平等な接し方をしている矢田さん。
でも、女でこんな不遇な扱いを受けているのはきっと自分だけだろう。何でだ。

「しかしその顔。…っ…あははははは」

よほど面白いのか里真の顔をチラチラみては大笑い。


「笑うがいいですよ。経理の前原さんと実は怪しい関係って皆に言ってやる」
「前原ってあれは後輩…の前に男だろうが。美穂子はすぐ信じるからやめろ」
「優しくって純粋な彼女を持って幸せですね。よーしいろんな事教えてあげよう」
「あいつに変な事教えたらお前をつるし上げて会社のエントランスに飾るからな」
「怖っ…て、いうか。それじゃお笑い番組のバツゲームじゃないですか!」
「お前らしいだろ」
「えー…」

ほんとに、何でだ?

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