恋のお試し期間
意地悪言わないでください
「この前は行き成り付き合わせちゃってごめんなさいね。後で誠人に怒られちゃった」
「い、いえ。あの、何で私の番号」
「彼に聞いたの」
里真がグルメツアーから帰ってきた翌日。会社はお休みなのでのんびり昼まで
寝るつもりだったのに、何故か携帯に知らない番号から電話がかかってきて
恐る恐る取ったら美穂子。不思議に思いながらも彼女に暇ならお茶でもと誘われて、
いきつけという高そうなカフェへ案内される。
「あれ?私教えた覚えないけどなぁ?」
「私も何で知ってるのって聞いたらずっと昔会社で携帯なくした貴方の為に
誠人が電話かけてあげてそれで知ってるんだって。笑ってたわ」
「あ。そ、そんなことあったっけか」
新入社員時代にそんな事をやらかした覚えがあるようなないような。
苦笑いする里真に美穂子も笑って紅茶を飲む。1杯980円とか高すぎる。
ここのお代は私が出すからと言ってもらったので一安心。
「面白い人。あ。そうだ。ここを出たらあのお店でランチにしない?
この前はコーヒーだけだったから。ぜひともランチが食べてみたいの」
「いいですね。どれも美味しいですよ」
「誠人も誘ったの。でも会社に行く用事が出来たとかでちょっと遅れるみたい」
「え。じゃあ私なんかより2人きりのほうがいいのに」
「里真さんといるととても面白いし、楽しいから」
「はあ」
どうしようカップルで面白い人認定された。
もしかして彼女の目にも自分はお笑い芸人に見えてる?
一応笑うけど苦笑い。話をしながらお茶を飲み終えると丁度お昼の時間。
休日は早めに行かないと混む。事前に電話をしておこうかと思ったが
なんとなく気後れしてそのまま移動。
「席あいてて良かったわね」
「そうですね」
隅っこの席が1つ空いていて案内された。お店はほぼ満員。
バイト君たちも佐伯も忙しそうにしていて話しかける余裕はない。
彼にはゆっくり出来そうな時間に顔を出しますとだけ言ってあったから
こんな混んでいる時間に来て驚いているだろうか。
なんて考えつつ。ランチを選ぶ。
「え?化粧品?」
「はい。美穂子さんが使うんだからやっぱりブランドですよねえ」
「まあ、そうね。でもちゃんと自分にあったものを選んでるけど」
「綺麗だから…なんでも似合いそう」
「そうでもないけどね。あんまり派手だと誠人が怒るのよ」
「へえ」
温泉で肌ツルツルと嬉しかったのに美穂子の肌を見て愕然。
何を食べたらこうもきれいになるのか。
きっと朝はフルーツとかで栄養バランス取れてて運動も適度にして。
まさにモデルさん。いや、女優か。それくらいの美貌と貫禄。
勝手な想像だけど。里真の中で美穂子が女優になっている。
「遅くなった。もう食べたか?」
「まだ。誠も頼めば?」
「あ。ども。お疲れさまです」
「ああ。お前も付き合わされて災難だったな」
「どういう意味よ」
話をしているとやっと到着の矢田はスーツのまま。美穂子の隣に座る。
彼も注文して3人で待つ。ランチが来て会話を交えつつ食べて。
その後は当然2人はデート。里真は店を出たら適当に時間を潰す予定。
もしかしてまた彼氏が来ないから里真を呼んで時間つぶししたのか?
高級なお茶はおごって貰ったしランチも堪能できた。
悪意は無いと思われるが、なかなか彼女もお嬢様だ。
「ああいう男がいいのか」
「な、なんですかいきいなり」
3人分まとめて会計をしてくれるという矢田に申し訳ないと里真も一緒にレジへ。
混んでいるから先に外へ出ている美穂子。
「美穂子から聞いた。あのオーナー狙いなんだって?」
「狙いって言うか。その。えへへ。実は交際中…えへへ」
矢田ならいいだろうとついに佐伯との事を話した里真。
引き締めてもついデレデレと笑ってしまう。
「ふうん」
何時ものからかう感じとちがい冷めた言い方な気がする矢田。
「分かってますよ。私には不相応って言いたんでしょ?でも」
「優しそうに笑ってるけど、その裏では何隠し持ってるか分からないもんだ。
ああいうのって深入りすると厄介で面倒だったりするのに。お前、対処できるのか?」
「え?慶吾さんは優しいし何時も気遣ってくれます。怒ったりしないし」
「今はだろ。何時本性見せるか」
冷めた視線のまま淡々と言う矢田は何時もよりだいぶ無愛想。
普段里真をからかう時はもっと笑っているのに。その笑みがない。
本気でそう思っているのかと思ってしまうくらい。シリアス。
「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか。私の彼まで馬鹿にして」
「馬鹿にはしてない。厄介だと忠告してやってんだ。お前あんまり男知らなそうだから」
「ひ、ひど。私だって少しくらい。もういいです。ほんと酷いんだから。矢田さんの奢りです!」
「初めっからそーだって言ってるだろ」
里真は不満そうな顔をして先に店を出る。呆れた様子の矢田。
やっと順番が来て会計を済ませる。外では恋人と話している里真。
愚痴っているのかと思ったが笑いあっているからそうではないようだ。
「里真、怒ってたけど。あまり穏やかな会話じゃなかったみたいだね?」
矢田が店を出ようとするといつの間にか傍に居たオーナー。
その表情は何時もと変わらない。けど言葉は少し冷たい気がした。
「ハッキリ言えばいいんじゃないか。態々釘刺しにくるって事は何か疚しい事でも?」
「疚しい事?ただ俺の恋人を怒らせないで欲しいだけだよ。デートに誘いたいしね」
「デートねえ」
「君だってそうなんだろ。人の恋人にちょっかいだしてる場合じゃないと思うよ」
「ちょっかい?あれが?悪いけどそんな趣味もないし暇でもないんで」
「そう?…ふふ、君も根に持つね」
「ご馳走様でした」
少し遅れて矢田が店から出てきてそのまま美穂子と2人街へ行く。
里真は用事があるからと別行動。ランチが終わるまで適当にぶらぶらしよう。
カバンの中には佐伯への土産も入っている。これを渡すまでは。
「…そんな訳ないのに。ほんと意地悪だな矢田さんは」