恋のお試し期間


美味しいお弁当の勢いを借りて取引先の会社へと向かう。
けど、やっぱり目の前にすると怖いから矢田の後ろを不安げに歩いて。
受付のお姉さんが美人だったのでちょっと見惚れて、矢田に怒られて。

後は緊張で何をしてたかさっぱり覚えてない。
けど、気づいたら無事に仕事を終えていた。

殆ど矢田がやったので恐らく里真は作り笑いして傍に座っていただけ。
出せと言われるものは既に順序良く並べておいたのでスムーズだった。
事前にやっておけと言ってくれたのは矢田だが。

フォローできないと言われたけれど、結局は彼に助けられた。


「ほんと幸せそうに食うなお前」
「美味しいものは美味しいです」
「そらそうだけど」

頑張ったご褒美に矢田が同僚に教えてもらったという居酒屋に連れて来てもらった。
既に会社への報告は済んだから後はもう直帰するだけ。
仕事からの開放感とそれによって襲ってきた空腹に目をキラキラ輝かせあれこれ
次々に注文する里真。おやつだって食べてないのだから少しくらいいいだろう。

「飲まないんですか?電車だから気にしないでいいのに」
「あぁ。後で美穂子と会うから。あいつ、酒臭いの煩いんだ。
けど、せっかくここ来たのに烏龍茶ってのも味気ないよな」
「可哀想に。じゃあレモンの搾りかすでも食べます?」
「馬鹿。ねぎまよこせ」
「あ!最後に食べようと思ってとっといたのに!」
「さっさと食わないからそうなる。営業と一緒だな。早いもんがち」
「私は事務です。知りませんよそんなシビアな世界」

とっておきのねぎま。凄く肉厚でおいしそうで楽しみだったのに。
怒る里真だが矢田は残念でしたと笑うだけ。もう1回注文しようか。
それとも別のモノにするか。考えていると彼の携帯に電話。

「悪い。美穂子だ」
「どぞどぞ」

彼女さんですか。里真は笑いながらメニューを見ることにして黙る。
暫くして自分の携帯も鳴り出した。見ると佐伯。
何時もはもっと遅い時間なのに。どうして今日はこんな時間なのか。

『今日は少し早めに切り上げたんだ。もう、家だよね』
「あ。あの。今日は出張で」
『そう、なんだ。じゃあ今は会社?にしては騒がしい…よね?』
「終わって今食事してる所なんです」
『へえ。……君、1人?』
「いえ。会社の人も居ます」
『…ふぅん』
「帰ったらまた連絡しますね」
『疲れてなかったらでいいから』
「はい」

もしかして私の事を気遣ってくれたのだろうか。ならタイミングが悪い。
里真は携帯をしまい軽くため息してつくね串を食べた。
隣ではまだ恋人と電話中の矢田。やはり定期的に連絡を取り合うものか。

「ったく。イチイチ確認の電話なんか要らないってのに」
「いいじゃないですか電話くらい」

自分ももっと佐伯と恋人同士な事がしたい。近づきたい。
そんな気持ちが高まっているのは彼と美穂子を見ているからか。
仕事をしていると中々密に連絡を取り合うというのは難しいけど。

「メールも来る。返事ないとすぐ電話だ。…めんどくせえんだよなこういう所」
「ああ。分かります私もすぐにメール返事しないからよく友達に怒られます」
「お前はただのズボラだろうが。一緒にすんな」
「あ!私のからあげー!」
「電車1本早いので帰るぞ」
「…デザート食べていいですか」
「好きにしろ」



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