恋のお試し期間
「あ」
軽い足掻きをしていたら手を押さえられ彼が上に居て見下ろされている。
一瞬何が起こったのか分からないがどうやら組み敷かれたらしい。
じっと此方を見つめる佐伯の顔は真面目で冗談めかしてはいない。
「まだ俺の気持ち確かめるってことは、もう暫くはお試しのままなのかな」
「……」
「それとも他に気になる男でもみつけちゃったりした?」
「違います。そんなんじゃなくて。ただ、やっぱり…不安になっただけ」
仕事も見た目もどれをとっても中途半端で何一つマトモに出来たことがない里真と
努力家でそれが確実に自分の道につながっている佐伯。
何時か彼に見合う女性が現れてしまうのではないかと思うのは考えすぎじゃないはず。
「意地悪な言い方したね。ごめん。でも良かった」
「私…」
「ん?」
「…わ…私、も。…慶吾さんが好きですから」
はっきり口にするのはこれがはじめてなんじゃないだろうか。
ずっと「お兄ちゃん」ポジションで線引きしてた彼への想い。
顔を真っ赤にして視線を逸らす里真。
「…酷いよ里真」
「え」
里真が顔を向けると困った顔をする佐伯。不味かったろうか。
「そんな嬉しい事言ってくれるのに君に触れさせてくれないなんて」
「……だって」
見つめられて追い詰められて。里真は深いため息をする。
おもいっきり彼の胸に飛び込めばいいのに、
その覚悟もあったはずなのに。いざとなったらダメなんて。
自分でもそれは無いでしょ?と思うけど。
「やっぱり俺ソファで寝るよ」
「そんな」
「嫌がってる子に無理に迫るなんて最低だ。頭冷やして大人しく反省します」
佐伯はあっさり掴んでいた手を離すとベッドからも出てしまう。
怒ったり悲しそうな顔はしていなかったけれど、ちょっとさみしそう。
1人になったベッドはとても広く感じて罪悪感と寂しさと。
暫くその中でモゴモゴしていた里真。
「慶吾さん」
このままじゃダメだ。なんとかしなきゃ。
ベッドから出て真っ暗なリビングに向かいソファに寝ている彼の元へ。
その隣りに座った。
佐伯は不安そうな顔で見つめる里真の頭をそっと優しく撫でる。
「いいから。お休み里真」
気遣わせてごめんね、と里真が謝りに来るのだろうと察しはついていた様子。
佐伯は笑って見せるがそれが里真に見えているかは分からない。
「……慶吾さん」
「大丈夫。ね?里真。これくらいで怒ってないし、落ち着きたいだけなんだ」
「……」