恋のお試し期間



夜あんな事をしたせいか、妙な夢を見た気がする。

でも起きたらすっかり忘れて細かなことは覚えてない。

「…あ。おはようございます」
「おはよう里真」

目を開けると朝の明るい世界。そして自分を見つめている佐伯の顔。
寝ぼけて一瞬あれお母さんが起こしに来た?と勘違いしたけれど
母なら大声で叫んで布団バシバシ叩かれて起こされるので絶対違う。

そうだ彼に抱きついた形で寝てたんだ。

里真はぼやけた意識のまま彼に挨拶する。笑顔で返されてキスされた。

「どうしたんですか慶吾さん。そんな見つめて。あ。私顔すっぴん」
「何時もと変わらない可愛い里真だよ」
「…じゃあ」

どうしてですか?と聞こうとしたらそれよりも早く理解した。彼の視線の意味。
慌てて起き上がり胸元を隠す。そして床に落ちたブラを拾って逃げる。
着替えを済ませてからリビングに戻ったら佐伯は笑っていた。小動物みたいと。

「可愛いのに体は大人の女性だね。ほんと色気があって俺もよく我慢できた」
「慶吾さんっ」
「朝食の準備してるからもうちょっと待ってて」
「…は、はい」
「食べ終わったらデートしよう。ここに居ると本当に君を襲いそうだから」
「……」
「その困った顔もほんと可愛いよ」
「もう」

正式な恋人同士になったら私を甘やかすからと言われたけれど
これ以上甘くなったらどうなるんだろう。

痩せる所かもっと加速して太りそうな気がする。優しい彼氏は素敵だけど
体が戻ってしまうのは過去の苦い経験からして避けたいことなのに。
だけど彼は里真が太ることになんの抵抗もない様子。むしろそちらのが好きなくらい。

まさか彼はおデブが好きなの!?

だったら自分に気があるのも分からなくはないけれど。
でも、そんな発言は今まで聞いたことがないし、
街やお客さんでふくよかな人を見て嬉しそうにしているのも見たことがない。

「ほら。朝はしっかり食べないと」
「食べてますから」
「里真。あーんしてあげようね」
「い、いいです。私を太らせたら付き合えませんよ」
「あ。そっか。すっかり忘れてた」
「…恥かしい事を言ってしまった」
「じゃあ。コーヒーを」
「私は幼児じゃありませんから。普通に飲めます!」
「…ごめん」
「あ、あの。その。……じゃあ、…慶吾さんあーん」
「あーん」
「早いっ」


心が折れそうになるけれど


ダイエットは頑張ろう。

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