恋のお試し期間



「慶吾さん痛い」
「ごめん」

そう言うと少しだけ抱きしめる力を緩めてくれた。
仕事終わりに彼の店にコーヒーを飲みに行って。そのまま帰らずに夕飯を食べて。

だけど佐伯の部屋には行かず家まで送ってもらう途中の車内。

車を路肩にとめたかと思ったら
いきなり抱きしめられて驚いた。だけど嫌な気分ではない、むしろそれが嬉しかった。

「…あの。今度、連休ありますよね」
「うん」
「よ、良かったら…2人で何処か…行きません?」
「あ」
「な、なんて。お店ありますよね。冗談です」

佐伯の気まずそうな反応を見て里真は苦笑いする。
祝日だから彼も暇とは限らない。自営業なのだから。
そう分かってても当たって見事に砕けた。ちょっと切ない。

「いいよ。何処へ行こうか」
「冗談ですって」
「だめだよ。もう俺はその気になってるんだからね」

ニコニコと嬉しそうな顔をして里真の頬に何度もキスをする佐伯。
里真は恥かしそうにしながらも拒否はせずされるがままに。
車内はキスの音とくすぐったくて笑う里真の声が響く。

「行く場所は里真が決めてくれていいから。俺は君がいれば何処でも楽しい」
「じゃあテニスしに行きませんか。教えてもらいたいなって思ってて」
「いいけど…」
「あ。遠出するのにテニスは不味いですか?」
「教えるのは全く構わないんだけどね。必要なものも一式貸してもらえるし」
「ほんとに?買わなきゃいけないかと思ってた。よかった」
「良くないよ。そこはスカート短いんだ」
「そう、なんですか。ズボンとかでいいのにな」

チラリとズボンから見える細くは無い足を見て苦い顔をする里真。
会社では仕方なくスカートでそれを隠すために黒系のタイツを穿いている。
他の女子は皆細い長い足をしているのに。

「君の可愛い姿は見たい。けど他の男の視線を集めると思うと。悩む所だよ」
「そんな。あの、ズボンだけ買って行きます。どうせジム通うつもりだし」
「ズボンか。でも、嫉妬しそうだからそっちの方がいいかな」
「慶吾さんは自前でラケットとかありそう」
「一応ね。じゃあ、予約しておこう。そこはホテルもあるから休憩もできる」
「いいですね」
「それ以上も出来るから。気が向いたら誘って」
「え。あ。は、はい」
「じゃあ惜しいけど君を送ろう」

軽く唇にキスすると車を動かす佐伯。連休を利用するのだからお泊りをしたい。
彼とお泊りはこの前したけれど、やはりまだまだ緊張してしまって身構える。

誘っておいて夜は別の部屋にしてくださいなんて言えないし。

でも佐伯の事だから自分の不安な気持ちを察してそこまで積極的にはならないだろう。
なんて楽観的な事を考えたりしていた。これで連休を2人きりで過ごす事が出来る。
里真は浮かれていた。

それはもう誰でもすぐ見て分かるくらい。



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