恋のお試し期間
「遅いぞ日野」
「女子には色々あるんですよ」
「女子ってお前」
「それ以上言ったら美穂子さんに」
「で。その美穂子はどうした」
同じタイミングで着替えを終えて鏡の前に座ったのに
先に準備を整えて出てきたのは里真。
出てすぐのところで1人待っている矢田。佐伯の姿は無い。
「髪の毛結ってました」
「あぁ。アレな。あいつ髪弄りだしたら馬鹿に長いんだ」
「まあいいじゃないですか美人に磨きが掛かる訳で」
「おっさんみたいな事言うな」
「所で慶吾さんは」
「さあ。知らない」
まさか、喧嘩して彼が怒って出て行ったとかじゃないよね?
聞き出そうとしても矢田は冷めた顔で言うだけ。
「そんな意地悪な言い方しなくても」
「知らないもんは知らない」
「……」
「睨むな。ここに来た時から居なかった。先に店に居るんだろ、お前も行けよ」
どうやら彼と顔を合わせてもないようで安心。
いや、これからそうなるのだけど。
その前に。
「あの。矢田さん」
「何だよ」
「慶吾さんとはどういう関係なんですか」
これを聞いておかないといけない。
「……」
「教えてもらえませんか。不安になるじゃないですか、2人がそんな感じだと」
「……不安、ね」
「実は2人は過去お付き合いをしていたとかそういう関係」
「殴って欲しいのかおのれは」
「い、いまのはちょっとした冗談です」
「さすが笑いの神冗談のタイミングも素晴らしいな」
「……で。どうなんですか」
答えを促すようにジッと見つめる里真。
視線を逸らす矢田。
だが彼は軽いため息をして。
「…従兄弟」
「え」
「だから。…従兄弟」
「い、いとこ」
「お前の質問に俺は答えた。ほら、行けよ。行けって。しっし」
「…は、はい。え?でも苗字」
「いけ」
手で行けと追い立てられその勢いで店まで行った里真だが
矢田と佐伯が従兄弟つまり身内だと聞いて驚きを隠せない。
だったらどうして逆にあんなに険悪で他人行儀なのだろうか。
新しい疑問が浮かんでしまった。
「1人にしてごめんね里真。ちょっと電話しに行ってて」
「あ……」
「どうかした?」
店に行くと佐伯の姿はなくて予約した席に1人ぽつんと座る里真。
矢田はまだ美穂子を待っているのだろう、あの不機嫌な顔で。
それからすぐに佐伯がきて隣に座った。すぐ手を握られる。
「別に。お仕事の電話ですか?」
「まあ、ね。でも大丈夫だから」
「私が無理に誘ったから」
「そんな風に言わないでほしいな。君と居られるなら何でもする。
何もしないほうがずっと…辛いし、後悔するからね」
「慶吾さん」
「今日は、…2人きりにはなれないけど。でも、同じ時間を過ごせて嬉しいよ」