恋のお試し期間
全員揃ってやっと夕食が始まる。最初はノンアルコールで乾杯。
髪を結い化粧のノリもばっちりな美穂子は夜でも美しく目立つ。
自分が居なければ美女とイケメン二人の派手な晩餐会。
いや、そこはもう深く考えない事にして
里真は食事と佐伯との会話に集中。
2人の関係のまだ上っ面しか聞いてないから余計に気になって。
「どうしたの?俺の顔がそんなに見たい?」
「あ。いえ。あの。…えっと」
「ああ。飲み物無いね。気づかなくてごめん、頼むよ。同じものでいいかな」
「は、はい」
矢田には突っ込んだ会話ができるのに佐伯になると踏み込みにくい。
彼に嫌われたくないとか聞いてはいけない空気とか色々考えてしまって。
里真はぎこちない動きをしながらも結局は聞けないまま。
「あーあ。誠人も佐伯さんみたいに少しは気遣ってくれたらいいのに」
「気遣ってるだろ。何だ飯まだ足りないのか?」
「聞いた里真さん。酷いでしょ?」
「ははは…は」
今の所矢田と佐伯が険悪な空気になる事は無い。
まず会話がない。
里真と美穂子が喋っているのに時折矢田か佐伯が入るくらいで。
視線すら合わせようとしないのは違和感があるけれど、一応平和。
「2人は付き合いだしてどれくらい?」
「まだそんな…には」
「そうなんだ。今が1番楽しい時かもねぇ」
「変な事吹き込むなよ。後で面倒になっても知らないぞ」
「あら。いつでも相談に乗ってあげるつもりだけど?」
「お節介なんだよ。その上から目線も。子どもじゃないんだから」
「はいはい。ほんと理解が無いんだから」
終始美穂子を中心として話は進みそれでバランスは保たれて。
里真は冷や汗をかく事はあったけれど無事に食事会は終わらせる。
後は各自彼の車に乗ってさようなら。
とてもホテルに泊まっていきましょうと言える空気じゃなかった。
私の脱処女が。
「綺麗なだけじゃなくて明るいいい彼女さんだね」
「……」
「また無視?子どもじゃないって言っといて君が1番子どもなんじゃない」
「あんたに関わらないで済むならそれでいい」
「じゃあ君は里真に関わらないでくれる?それで済む話だよ」
車を持ってくる前に彼女たちがそろってトイレに行きたいと言い出して。
先に外へ出た男2人結局同じ場所に留まる事になってしまう。
矢田は終始視線を合わせまいとそっぽを向いているが佐伯は彼を見て少し笑った。
「好きで関わってるわけじゃない。仕事上仕方ない」
「どうだろう。君だってもう気づいているんじゃないのかな?本当に分かってない?
分かっているからそうやって苛立ってしまうと思ったんだけどね?」
「何だよそれ。あんたもそういうの気にするんだな。実は内心うろたえてんのか?」
「そんな幼稚な事は考えてないよ。ただ、彼女は純粋だから。傷つけたくないだけ」
「……それで。今の俺が素直に頷くと思ったのか?」
「じゃあ、どうする?」
「さあな」
何か含みを持たせる言い方をして矢田は先に車へと向かう。
ホテルから出てくる恋人が見えたから。続いて里真も出てきた。