恋のお試し期間
気になる彼の裏の顔?
「何だよ。言いたいことあるならはっきり言え。睨むな」
翌日。
他の部署に用事があってその帰りに
今日も忙しく動いている営業の方面をチラッと覗いた。
ガッツリ行くのには勇気がいる。沢山人が居て分からないかもと
思ったのだが
案外彼はすぐに見つかった。
というか
コソコソ様子を伺っている里真の真後ろに立っていた。
これはものすごく怖かった。やめてください怖いじゃないですか!と言ったら
お前の方が怖いわと突っ込みを入れられ人気の無いところまで連行される。
「睨んでません。その…あの、ほら、慶吾さんと、ね?」
あんな中途半端な情報だけでは納得出来ない。むしろ余計に気になる。
だから、もし、教えてくれるなら佐伯との事をもう少しちゃんと知りたい。
仕事中にすることではないからお昼でもいいし。
と、もぞもぞしながらそれとなく矢田に言ってみた。
「だから。何で俺にばっかり聞くんだよ。知りたいなら彼氏に聞けよ」
「だ…だって聞きづらいんですもん」
まゆを潜ませ不機嫌な顔をしている矢田。
しどろもどろで正直ちゃんと通じたのか自信がない里真だが
聞きたい事を察しているようだ。で、やっぱりすごくご機嫌斜め。
彼はハア、と溜息をして。
「お前は俺の何なんだよ」
「……」
「俺には何でも無神経に聞いてくるのか。
彼氏は気遣っても俺だったら何してもいいってか」
「そ、そんなつもりじゃ」
「そうだろ。別に俺はお前の友達でもなんでもないんだ。プライバシーとか
考えないか普通。そっちは彼氏と楽しいかもしれないがいい加減にしろ。
仕事の用事でもないのに無駄にウロウロして。ほんと目障りなんだよお前」
「……ごめんなさい」
今更だけど、美穂子は言っていた。
彼は過去を語らないと。聞くと機嫌が悪くなってしまうと。
恋人でさえそんな調子なのに他人が無神経に聞いたら怒るのは当然か。
これは何時もされる注意とかでなく本物の怒りだ。
親にもここまで怒鳴られたことなんてない里真は少し泣きそうになる。
「何やらかしたか知らんがそんな怒る事ないだろ。彼女泣きそうじゃないか」
その様子を見かねた同僚らしい男が間に入る。
「こいつは本気で言わないとわかんねぇんだ」
「にしたってさ」
「す、すいません。失礼しましたっ」
里真は深く頭を下げてその場から逃げるように去る。
彼にだって触れたくない物はある。嫌がってたのはわかってたのに
自分の気持ちばっかりで
馬鹿だ。ほんとうに、馬鹿。消えてしまいたくらい、馬鹿。
今更後悔しても遅い。
落ち込みすぎてお昼もろくに食べられないまま定時を迎えて帰宅。
こんな姿を佐伯には見せられないと店には寄らずメールだけした。
今日は友人と飲むのでいけません電話も出来ません、と嘘のメールをして。
家に帰る途中もずっと同じことを考えては涙目になる。
「どうした姉貴。悲壮な顔して。とうとうふられたか」
「本気で人を怒らせた事ってある?」
「はあ?…ねえけど」
「そっか。じゃあ、どうやって許してもらえるかなんて分からないよね」
「何やらかしたんだよ」
「ほっといて」
どうしよう。どうしたらいいだろう。
最悪だ。