恋のお試し期間
もっとちゃんと言わなきゃ。知りたいことがあるのだから。
「……」
でも彼の顔を見るとそんな気持ちが崩れてしまう。
だめだな私。
「里真?えっと。噂…気にしてるの?」
何で1歩踏み出せないんだろう。彼氏になる人なのに。
「違うなら、いいんです。あ。別に過去の事だし…いいんですけど」
「俺はずっと里真しか見てないよ。昔も今も。これからもね」
何処か落ち着かない里真。
そんな彼女の手を握り優しく微笑みかける佐伯。
「慶吾さん私、…もっと、ちゃんと、貴方の事…知りたいな」
「え?もしかして疑われてるのかな俺。過去の女性関係とか?」
「そうじゃなくて。真剣に貴方の事を考えてるから。だから」
「そっか。じゃあ、何が知りたい?」
「…矢田さんとは従兄弟…なんですね」
「彼から聞いた?」
「…はい」
「そっか。君に話したんだね。てっきり何も言ってないと思ったのに」
「どうしてそんな」
「仲が良くないのかって?そっか。それが知りたいわけか」
「…だって」
あんなあからさまに険悪な空気を出されたら誰だって気になる。
佐伯はまんべんなく優しい、矢田も厳しいけれどそれだけじゃないし。
でもお互いに何も言ってくれないし聞けばすごく不機嫌になる。
2人の間に悪い何かあるのだろうと察しはつくのだが。
「彼が気になる?」
「矢田さんがというか、慶吾さんが…です」
佐伯は不機嫌な空気は出しても怒る事は決してないし里真は甘やかされるばかり。
他の子にだって優しい明るい態度で接しているからお兄ちゃんと慕われていた。
嫌われる要素なんて見つからない。けど、実際問題仲はよくないとなると。
「俺に何か裏でもあるって思った訳だ」
何か隠されたものが、あるのかも?
里真が気づいてない、なにか。
矢田が言っていたような。
「裏だなんて」
「あるよ。裏」
「え」
あまりにもすんなりと返事するから里真は驚いて彼を見上げた。
特に怒っている様子もないし何時も通りの優しい笑顔だった。
裏がある、なんて言うからなんだか怖い笑みに見えてしまうけど。
「でもそれって誰でもあると思うけどな。裏表の無い人間の方が少ないと思わない?」
「…はあ」
「彼だってそうだし。俺だってそう。里真は…ああ、君は無いね。すぐ顔に出る」
「えうそっ」
「はは。そういう所。可愛いなあ。いい子だね君は」
さっきよりも更に笑って里真の頭を撫でる。昔みたいに。