恋のお試し期間
そんなあっさりと認められると何も言えない。
裏。裏の顔。隠された性格?なんだろう。
「慶吾さんの裏って…どんな感じですか」
「そうだなあ。あ。大丈夫だよ?里真に危ないことはしないから」
「はあ」
「そんな大層なもんじゃないって。ちょっと我がままになるだけ。
それじゃ駄目かな。もちろんそんな部分君には見せないからさ。ね?」
「え。あ。…はい」
どうしようこれ納得しちゃっていいの?
でも自分に危害がないなら、いいの?
経験がないからどう対処すべきかもわかってない。
あっさり言われすぎて今イチ裏の顔というものが分からなくなった里真。
ポカンとしながら佐伯に手をずっと握られっぱなしだった。
これが聞きたくても聞けなかったこと?
矢田が言いたがらなかったこと?
何で彼はこんなにこんな気さくに答えてくれるの?裏ってなに?
頭にハテナマークがいっぱい出てくる里真だがそれで頷いてしまって。
「と。いうことで。はい、里真。クッキー食べて。口あけて」
「じ…自分で食べられますから」
「いいから。あーん」
「…あーん」
それ以上は何も聞けなくなった。もういいかなとさえ思って。
馬鹿だとは思うけれど、それ以上どうしようもない。
矢田との間になにがあったのかをハッキリさせることはできなかったが
押し流されて。
「何をしても可愛いな里真は。そうだ、君の事も教えて欲しいな」
「ど、どんなこと?」
「そんな怖がることないよ。過去の男の事なんか興味ないから。
そうだな、やっぱり大事なのは今だから。今、君が興味あること。とか?」
「興味。そ、そうですね。やっぱりダイエット!」
「……俺じゃないんだ」
「え?」
「ほら。お口あけて。もっと食べさせてあげる」
「…あの、今ダイエットって言っ」
「あーんして」
「あーん」
なんだか丸め込まれた感があるけれど、もうこれ以上聞く気は無かった。
きっと子どもの頃他愛もないこととかで喧嘩でもしたのだろう。
それを今も引きずってる。
なんて里真は適当に理由をつけて思考を閉じる。
これ以上踏み込む事がなんとなく憚られて。勇気も無くて。
彼が自分から詳しく言わないということはいいたくないということで
下手に無神経な言い方をして怒られたくない。
きっと矢田に怒られたみたいに、佐伯にも怒られたら立ち直れないから。
「かわいい」
「……」
「ほらあーん」
「……餌付けですか」
「ん?お茶?」
この甘い時間を失いたくない。