恋のお試し期間
また上司からご指名を受け営業に助っ人にやって来る事になるなんて。
やっぱり目を付けられているのだろうか。
それともやはり肩たたき?
最近は静で落ち着いたと思っていたのに。里真は深いため息をついた。
「そんな執拗に避けるなよ。目あったろ。何回か」
「そうでしたっけ」
今は特に行きたくない。
会いたくない人が居るのに。
でも仕事をする上でそれは関係のない話し。
「そうでした。…俺だって指名出来るならもっと違うやつにしたいよ」
「やっぱり私営業に回されるんでしょうか」
そんな度胸もスキルも何もないのに。
「知るか」
「…でも。それならそれで頑張るしかないですよね」
「何だよ。何時もみたいに愚痴らないのか」
「愚痴ったって何も変わらないじゃないですか。矢田さんにも不愉快な思いさせるし」
「少しは気遣えるようになったのか。よかったな」
「相変わらず言葉に心篭ってないですね。いいけど」
怒られた後であの電話の後で何となく居辛いかと思ったのに、
営業に行った里真をまた彼が引き受けてくれた。
そして夜まで残って残業。
他の社員だったらもっと息苦しかったろう。だから今更ながらちょっと感謝。
「コーヒー」
「はい」
それだけ言ってお金を里真に渡す。今度もちゃんと2人分。
言葉は少ないけど美穂子が言うように彼は優しい。
所もある。
「ああ、…美穂子からだ」
「心配されてるんですねえ」
「ニヤつくな」
コーヒーを持って戻ってくると今まさに電話を終えた様子の彼。
「いいじゃないですか。気遣ってくれる美人の彼女。まさに理想じゃないですか」
「何が理想だ。人の事はほっとけ」
「あ。すいません。また無神経に」
「いいよ。もう」
お互いに席についてコーヒーを飲んで一息。
何度と無く組んで仕事をしている所為かかなりこなれてきた。
といってもまだまだ矢田のフォローが必要な駄目社員だけど。
「……、慶吾さんに話を聞いてみました」
「だから?」
「よく分からないけど。なんか、裏の顔があるそうで」
「あいつはそういう男なんだ。でも、お前がそれで良いならこのままでいいんだろ?
そもそもお前の問題だ。俺は、関係ない」
「そうですよね。関係ないのに、何か巻き込んじゃってごめんなさい」
これは里真と佐伯の問題なのにすっかり彼を巻き込んで。
里真が謝ろうと彼の方を向いたら何故かずっと黙ってる。
「……」
動きも止まったまま。
「あの」
「ああ、もう。馬鹿。お前の所為だ」
「え?」
バンと机を叩いて立ち上がる矢田。
「ちょっとタバコ吸ってくる。お前はここんとこ間違えず入力しとけ」
「ひ、ひど。私だけこんな」
「このままじゃ俺何するかわかんねえから優しくしてやってんだろうが分かれ」
「はあ!?」
「あ。今のは間違ってもお前に手を出すという意味ではないからな。間違ってもないから」
「…言わなくても分かってます。大丈夫です。そんな真顔で言わないでください」
余計腹立ちますから。