恋のお試し期間
「やあ。裕樹君。お帰り」
「あ。ど、どうも」
「ビックリした?慶吾さん私の様子を見に来てくれて」
「そうなんだ」
緊張しながら帰ったらやっぱりまだ居てリビングで姉と話していた。
部屋に行くにはどうしても通らなければいけなくて渋々挨拶。
さっきまで三波といい感じで話してたのに、今は姉の手を握っている。
お兄ちゃんと慕っていたのは裕樹も同じ。
でも、佐伯は思っていた人じゃなかったのか。不信感がふつふつと。
「すいません愛想なくって。行き成りで緊張しちゃったんですよ」
「いいんだよ。俺の方こそ行き成りきてごめんね」
「ううん。嬉しいです来てくれて」
何時もはもう少し話をしていくのに弟は挨拶も適当に上がっていった。
何か不機嫌なことでもあったのだろうか。なんて思いつつ。
里真は向かいに座っている佐伯へと視線を向ける。
「里真。映画の事なんだけど」
「あ。大丈夫です。全然行けますから」
「いや、まだ歩くのは辛くない?だから、俺の部屋で映画観ない?」
「慶吾さんの部屋で」
「そう。俺の部屋ならさほど歩かなくていいしゆっくりできるし。
映画は君の好きなジャンルを教えてくれたらいくつか候補を借りてくるから」
「でもそんなすごい傷じゃないんですよ?」
「さっき君はとても歩き辛そうにしてたし。だから、不安なんだ。
映画館まで君を抱っこしていっていいなら」
「あ。いえ。あれはもういいです。…部屋で観ましょう」
あんな姿人前に晒したら恥かしすぎて死んでしまう。
顔を赤らめ恥かしがる里真だが佐伯はいたって真面目な顔をする。
冗談とかでなくこの人は本気で抱っこしていく気なんだと察した。
「あと。…怒ってないからね、声荒げてごめん。怖かったよね」
「ちょっとビックリしただけです」
「本当に?俺の事、怒る人だって思ったでしょ?」
確かに内心思った。
「そんな気にしませんって。誰だって怒る時は怒りますよ。
私だってすぐ小さい事で怒るし。会社でも…何度怒られてるか」
最近では矢田に怒られたがそれを彼に言うこともないだろう。
「俺は君に怒ったりしないよ。本当だ。あの時は少し気が動転してたんだ。
弱弱しい君の足から滴る血が…見えて、すごい傷だと思って。それで」
「慶吾さん」
「今後一切君を怖がらせる事はしない。誓うよ」
「いいですよ怒ってもらっても。だってそういうの含めて交際する訳で」
「あ、違うよ?君は好きに怒ってくれていいからね。悪いところは直すし」
「怒る事なんかないですって」
「里真は優しい子だね。…そういう所も好きだな」
彼に見つめられながら里真は顔を赤らめ。
もう遅いからと繋いでいた手を離し彼は帰っていった。
里真の実家とあって何時ものようなキスはなかった。