恋のお試し期間
お仕事は大変です
「……」
「……」
まるで迷子になった子どもが母親をさがすかのようにキョロキョロして。
此方を熱く見つめる視線。が、無視の構え。
「……」
「……」
周囲を気にしつつ1歩近づいてきた。まだSOSの視線は続く。
「…あっち行け」
「……」
「行けっ」
小声で言って手でしっしとするが。
「……」
「……」
まだまだじーーーっと見つめる視線。今にも泣きそう。
馬鹿野郎め。
「……、…おい曽田。その事務員の手伝いはやめとけ」
「え?何でだよ急に」
「こいつはポンコツで有名なんだ。ミスはするはコピーだってまともにとれやしない」
「そうなのか?さっき普通に」
「ツイてるなお前。それは奇跡だぞ。…こいつは俺が適当に返すから。
お前は杉田と組め。その方がずっと効率がいいぞ」
「でもそれじゃお前が」
「俺は何とかなる」
と言いつつ引きつった顔をして捲くし立てると
泣きそうな顔をしているポンコツ事務員をつれいったん部署を出る矢田。
同僚は不思議そうな顔をしていたが一応は信じたようで。
元々組んでいた杉田と話をして仕事を再開していた。
「はあ。死ぬかと思った」
「勝手に1人で死ね」
「ひどっ」
「何なんだよお前は。本当に本当に本当に何でそう毎回俺を巻き込むんだ」
前よりは怒声はキツくはないけれど、今回もかなり苛立った様子の矢田。
でも里真だって今回は負けていない。逆切れのようなものでもあるが。
「だって営業で話し出来るの矢田さんだけじゃないですか。なのになんで今回は
違う人としかもメインプロジェクトに関わる責任重大なチームなんか…無理です死ぬ」
何時ものように営業サポートにまわれといわれててっきり矢田の手伝いと思った。
けど行って見ると全く知らないすれ違った記憶すらない何やら厳しそうな人で。
特に説明もなく当然のようにそのプロジェクトとやらに組み込まれて。
話をまったく把握できないし何気ない話をする事も怖くなって。息苦しかった。
「だから1人で死ねよ。俺だって忙しいんだ」
「無理です無理です無理です無理です」
「ガキみたいに駄々こねるなこれは仕事なんだ。選ばれた事に少しは自覚持て」
「この会社の上司はいったい何処見てるんですか?信じられません」
「それ自分で言って辛くないのか」
「…どうしよう。目の前が真っ暗になって来た」
「ンな壁に頭ぶつけてりゃそら暗いだろ。…こんな厄介モンどうしたらいいんだ」
「ポンコツ事務員ですいませんでしたね」
「助けてやったんだ。お礼を言えお礼を」
「ありがとうございました」
「だからその奇行をやめろ」
頭をゴリゴリ壁に押し付けて人生お先真っ暗感を出しているのか。
今イチ理解は出来ないがとりあえず怪しいので壁から引き離す。
少しは慣れ始めていたとはいえやはりプロジェクトに関わるのはプレッシャー。
それだけ会社の評価は高いと思うのだが彼女はそれが重荷でしかない。
矢田は悩み頭を抱え苛々しながらもそんな里真の首根っこを掴み連れて行く。