恋のお試し期間
「犯人分かりました?私思ってた人と違いました」
「まあね。…この映画の原作を読んだ事があるから」
「そうなんですか?あ。じゃああんまり面白く」
「いや。ちゃんと忠実に作られていて楽しかったよ」
2時間後エンドロールが流れる中、里真はやっと彼に話しかける。
ずっと映画に集中して何も喋らなかった。お茶にも手を付けず。
それくらい見入ってしまった。申し訳ないとは思ったけれど。
「すごいですね。私小説全然読まないから」
「俺だってそんな熱心な訳じゃないよ。空いた時間に少し読むくらい」
「へえ」
「そんな時間も君との時間に費やしたいな」
彼は不機嫌な様子はなく優しく微笑んで里真の頬を撫で見つめてくる。
「…ごめんなさい」
「え?何で謝るの?…それは俺といるのは嫌って、意味?」
「違います。慶吾さんの気持ちに添えなくてごめんなさいって意味で。
ほら私最近ずっと忙しくて会いに行けなかったりするじゃないですか」
「仕方ないよ。帰りが遅くなるのは心配ではあるけど」
「最初はそれが嫌でたまらなかったんですけど。今はやりがいを見出してて。
私もやっと社会人の自覚ついたのかな?なんて思ったりして」
まだまだミス連発でサポートするはずの矢田に怒られているけれど。
他の社員さんたちはそんな里真を励ましてくれる。
冷たく見えて意外にあの課の人たちは優しいのだと気づいた。
もしかしたら珍獣扱いされてるだけかもしれないけど、嫌われるよりずっといい。
だから最初ほどの緊張も恐怖も薄れてきている。強くなったのかも。
なんてそんな調子に乗った事を矢田に言ったらそれこそ殴られそうだけど。
「そっか。いいんじゃない?やりがいは大事だよ」
「はい。あ。でも、…慶吾さんとこうして過ごす時間があるから。頑張れるのもあります」
「嬉しいよ。ね、里真。もっと近くまで来て。君から来てくれないかな。俺の膝に」
「…はい」
言われるままに里真は佐伯の膝に座る。すぐ抱きしめられた。
暖かい胸の温もりに香水の香りが仄かにして。幸せをかみ締める。
「俺だって君とこうして2人で居られるなら何でもするし我慢も出来る」
「慶吾さん」
「あ。そうだ。君にプレゼントがあるんだった」
「え?」
「少し待ってて」
里真を優しく隣に移動させると彼は立ち上がり隣の部屋へ。
少しして戻ってきたその手には小さな箱。