恋のお試し期間
「あの」
「受け取ってください」
見るからに高そうなものが入っていそうな立派な箱。
ドキドキしながら包装を外していって箱を開ける。
「わ。素敵」
そこにあったのは小さな飾りがついたシンプルなネックレス。
「つけてくれない?」
「は、はい」
さっそく箱から出してつけてみる。
今日は胸元が閉じた服を着ているからそうしっかりとは見えないけれど。
「今だけでいいからボタン外していい?しっかり見たいんだ」
「…はい」
それもボタンを外したらよく見えるようになった。キラキラと綺麗。
「似合うよ」
「ありがとうございます」
「君が喜んでくれてよかった」
満足げに微笑む佐伯。里真も嬉しくてついニヤっとしてしまう。
向かい合って好きなだけ里真を見つめたらまた彼の膝に戻された。
ぎゅっと抱きしめられて時折胸元に視線がいって。少し恥かしい。
「会社にもつけていけそう」
「うん。だから極力シンプルなものにしたんだ」
「じゃあずっとつけていられそう」
「そうだね。そうしてくれたら嬉しいな」
佐伯は抱きしめた里真の耳元に唇をよせしゃべるから彼女はこそばゆい。
モゾモゾする里真を逃がさないとばかりにしっかり抱きしめ耳を甘噛みする。
「このトップも綺麗」
「これ実は細工がしてあってね」
「細工?何か特殊な技法でも」
「そうだよ。これがあれば君と離れていても…そう、家に居ても会社に居ても
誰とどんな話をしてどういう事をしているのか分かるんだ。すごいよね」
「そ、そんな魔法みたいな。え。ほ、本当に!?」
「聞かれてそんな取り乱すような事でもあるの」
「ありますよ!」
「あるんだ」
「はい!いっぱい!」
普通に失敗して怒られたり、愚痴ったら怒られたり、あと文句言って怒られたり。
ぼそっと1人で泣き言をぼやいたり、食べ物の事を延々喋っていたり。とにかく煩い。
そんな自分の言葉を彼に聞かれた日には絶対にドン引きされてさよならされる。
「そっか。じゃあ聞きがいがありそうだね」
「だ、ダメです。そんな機能がついてるなら付けられない」
「それは困るよ。そんな小さな石に何の機能があるっていうの。冗談だよ。冗談」
「もう。慶吾さん真面目な顔して言うから」
「ごめんごめん。そんな物騒なものを君に持たせる訳ないよ」
「…大丈夫ですよね」
「うん。大丈夫。だから…もう1つボタン外していい?」
さりげなく里真のブラウスをなぞる指。
「ダメです」
里真は優しくその手を退ける。
「じゃあキスしていい?」
「それは」
「いいんだよね」
「…はい」
1日を彼の部屋で静に過ごし。夕方には送ってもらう。
お泊りしても悪くは無いと思っていたのだが明日の事を考えて。
彼は特に引きとめたりはしなかった。