熱愛には程遠い、けど。
 女性の言っていることがまったく理解が出来ず、私はきょとんとして頭にクエスチョンマークを浮かべる。
「普段は乗らないんだけど大事な用事があって朝のラッシュ時に電車に乗ったら、降車時に押されて勢いよく突き飛ばされちゃってね。倒れそうになるとろを列車に乗ろうとしてきた宮下さんが助けてくれたんだよ。って、でも支えきれなくて派手に押し倒しちゃったんだけどさぁ! はははっ!」
 豪快に大口を開けて笑う女性に合わせて苦笑する。
「でもその時に衝撃で少し腰を痛めちゃってさ。嫌だねぇ、歳取るって。でも宮下さんが手を貸してくれて荷物持ってバス乗り場まで付き合ってくれてね。今時珍しいねぇ。若いのに、あんなに親切にしてもらって。お礼をしたいと言ってもそんなのいいと言って断られたんだけどそんなわけにはいかないだろ? だからしつこく言ってなんとか名刺をもらってここまで訪ねてきたってわけさ」
 女性はすべて説明し終わると満足した表情を浮かべた。
 さらに女性は私との距離を近づけるとベタベタと身体に触れてきた。
「いいねぇ、若いって。肌もツヤツヤだし、ん? 見かけによらずあるじゃないか。おっぱい」
「あ、あの……」
 同じ女性に無抵抗で身体をまさぐられる。あまりの衝撃に私は抵抗するどころか硬直してされるがままの状態に。おばちゃんに、胸を揉まれている……
「宮下さんのいいお尻してたんだよ~」
 宮下さんも、同じ目に!? おばちゃんに、好き放題されて……
 頭の中で想像しかけたところでぞっとして振り払う。
「お姉ちゃん、恵まれてるねぇ。あんな好青年が上司で」
 最後にそう一言告げて背を向けた。そして立ち去り際に一度だけ振り返った。
「あぁ、一つ伝言を頼めるかい? おかげでさまで間に合いました、そう伝えておいて」
 全身に冷汗をたぎらせ終始圧倒されっぱなしで、なんとか最後、頷くことだけは出来た。

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