熱愛には程遠い、けど。
「おはよー」
 自席についてほんの数分の差であとから宮下さんがやってきた。
「おはようございます……」
「古川さん、今日のお昼一緒にどう? ほら、この間のお礼……」
「……はい」
「……あ、もしかして昼買ってきちゃった? だったら今度に……」
「……はい」
「……あのぅ……」
「……はい」
 ふぅと深くため息をつくと、隣の宮下さんがびくっと身体を揺らした。私ははっと我に返る。
「ご、ごめんなさい。えっと……何でしたっけ?」
「大丈夫? 体調悪いの?」
「いえ。ちょっと寝不足なだけです」
「なら、いいけど……」
 会話の途中で宮下さんが課長に呼ばれ席をはずす。一人になるともう一度深いため息をついた。

 昼になり、朝に昼食を買い忘れて買いに出ようとしたところを宮下さんに呼び止められた。前にランチを奢ってくださいと言った約束を覚えて誘ってくれたのだ。断る理由はなく私は応じた。
 ランチの場所は私のリクエストで会社近くの昼はOLで賑わうイタリアンの店にした。よく周りの同僚がこの店を噂しているのを耳にしていたけど一緒にランチに行けるような仲のいい同僚がいない私は行ったことがなく一度行ってみたかったのだ。店に入ったのが早かったため店の奥、窓際の一番隅の四人掛けの広い席に案内してもらえた。
「好きなもの、なんでもいいよ。デザートも」
「でもランチについてますよ」
「デザートは別腹なんでしょ? 女の子って。追加でいっちゃいなよ」
「いっちゃいなよって」
 この日はじめてぷっと小さく吹き出した。
「じゃあ……このビッグパフェ。色々なフルーツ乗ってて美味しそう……」
「ビッグって! ま、まぁ、時間内に一人で食べれるのならいいけど」
「やだなぁ、宮……」
 言いかけたところで口を閉じる。宮下さんは不思議そうに私を見ている。
 今、宮下さんも一緒に食べてください、って言いそうになった……。いくらなんでもそれは慣れ慣れすぎるよね。いやだって、宮下さんパフェとかあまり違和感ないし一緒に食べるのにも抵抗……ない、みたい。
「おーい。古川さん? どうしたの?」
「いえ、なんでもないです」
 結局、ランチセットとは別にハーフサイズのパフェを注文し、食事が届くまでの間私はぼうっと外を眺めていた。
「宮下さん、浮気したくなる時ってどんな時ですか」
「……は!?」
 そして独り言のようにポツリと呟く。ただし、しっかりと名指しをして。
「え、ええっと……あの。急になんで? 一体どうし……」
「察してください」
「えぇっと……」
 宮下さんが動揺をしている様子が声色から十分に伝わってくる。上司に対してありえない態度をとっている自覚はあるけど、なんかもう、色々と限界だった。顔を上げて宮下さんと目が合うと一気に込み上げてくるものが溢れ出した。

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