熱愛には程遠い、けど。
「分かってるんです……私なんかが釣り合う人じゃないって……。ずっと、そう思ってきた。でも……一年以上、一緒にいて……」
 あろうことか、この場でぽろぽろと涙を流してしまった。
「指輪までくれたのに……」
 ふっと自分の視界に影が映った。私の隣に宮下さんが座ったのだ。店員からも他の客からも見えないようにと隠してくれたのが分かってこんな時だからこそその優しさが身に染みて余計に泣けた。
「なんかよく……状況が理解できないから何を言ってあげたらいいか分からないんだけど……」
 私は昨日のことを宮下さんに説明した。会いに行ったら他の女性と一緒にタクシーから降りてきた、ただ、それだけのことを。口に出して言ってしまうとあっけのない出来事だった。
「それだけで浮気って決めつけるのは……うん。早いんじゃないかな」
「でも、仲良さそうだったし……あのあと二人で部屋に向かったし………」
「本人とは何も話してないんだよね? 今のその不安を全部話して聞いてみればいい」
「それが……怖くて。私だって、ほんとは何もないって思ってるんです。彼のことは信じてるし。でも、万が一、本当に浮気だったらって思うと怖くて、だって、今までのことが全部、なくなっちゃうんですよ……?」
「怖いし、見たくない、知りたくない。でもそういうところの先に幸せってあるんじゃないのかな。だって、今のままじゃどっちにしろ不幸でしょ?」
「……はい」
「がんばって」
 目を合わせると、宮下さんが唇を噛みしめて真剣な様子で頷いた。めちゃくちゃ失礼だけど、なぜだか笑ってしまった。
「……え、笑う? 僕、真剣なんだけど……」
「ごめんなさい。なんか、うん。元気、出ました……!」
「そ?」
 宮下さんはなんだか納得いかない様子で席を立つと再び私と対面して座った。でもすっかり涙は止まって口元を緩める私の顔を見て笑った。 
 嬉しかった。ただの部下の私の話を真剣に聞いて、応援してくれる。ほんとに元気が出た。この間といい……私って、なんて単純なの!?
「今日、会ってきます!」
「いけいけ!」
「宮下さん」
「なに?」
 じっと見据えてから小さく頭を下げた。
「ありがとうございます」
「……へ? あぁ、ご飯のこと? それは約束だし……」
「いつもありがとうございます!」
「いつも!?」
 何がなんだか分からない宮下さんは困惑した様子で頬をかく。でも少しするとふにゃっと照れくさそうに笑った。
「なんだか変な感じ。いつも助けてもらってお礼を言うのはこっちの方なのに……でも、なんかいいね」
「宮下さん癒し系だからいつも癒されてるんです。一家に一台欲しい」
「えぇ!」
「あはは!」
 入社してから、仕事は退屈で気の合う同期もいない、その上セクハラギリギリの上司の相手ばかりで何度も辞めたいって思ったけど、宮下さんの下についてからは一度もそんなこと思ったことない。
 契約最後の年、このあと一年弱、最後までこの会社で頑張れそうだ。

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