熱愛には程遠い、けど。
 自席につくと嫌でも視界に飛び込んでくるものがある。隣の席に大量に積まれた書類の数々だ。それが休日明けとなると普段の二倍。祝日を挟んだ連休明けの今日は三倍。その席に座るはずの当の本人はまだ出社してきていない。
いつも時間ギリギリに出社する私。机の上に置いた置き時計に目を向けた瞬間に始業を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「あれ? 宮下は?」
「たぶん、まだ出社していないと思います」
「連絡ないし休みではないよなぁ。遅刻かぁ? ったく、アイツは……」
 朝から不機嫌な様子の平岡課長。でも私を目が合うところっと態度を変えて笑顔を見せると数枚に束ねられた書類を私に手渡した。
「古川さんお願い。これ、宮下が来たら渡して置いてもらえる? 午後までに提出するようにって」
「はい」
「ありがとう、ごめんねいつも」
「いえ……」
「今日も可愛いね」
「そうですか……?」
 鼻の下伸ばしちゃって。女性相手なら誰にでもこんな態度を取る平岡課長は正直苦手だ。若くに社内恋愛をして結婚をしたらしく子供もいるのに……自分の夫が、父が、会社でこんな風だと思うと絶対に嫌だ。それに課長だけじゃない。若い女性が多く働くこの会社では、全体的に課長のように馴れ馴れしく接して来る中年男性が多いのだ。

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