熱愛には程遠い、けど。
 外に出た途端、一気に気が抜けてその場にしゃがみこんだ。酔いもあるだろう。なぜだか急に悲しくなってきた。
 私はなにを期待しているのだろう。
 宮下さんが……いちいち自分のこと気に止めてくれるなんてありえない。彼にとったら、私なんてただの部下。私が雅史さんと付き合ってるって知った時も満面の笑みで応援してくれた。そう、私のことなんか眼中にないのよ。だから、私が男性に口説かれて困っていても助けにきてくれたりしない。恋人じゃないんだなら。
 しゃがみこんだまま体をぎゅっと丸めて顔を伏せた時だった。
「古川さん!」
 自分の名前を呼ぶ声と気配。顔を上げて隣を見ると、心配そうな表情で視線を合わせる宮下さんの姿があった。
「宮下さん……」
 驚きで、消えそうな声で呆然と名前を呟くことしかできなかった。
「大丈夫? 飛び出してく姿が見えたから……どうした? 気分悪い? 飲みすぎた?」
 なんだかもう、課長とのことなんてどうでもよくなって、説明すらする気が起きない。
 ただただ今は、自分を気にかけて追いかけてきてくれたことが死ぬほど嬉しい。

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