熱愛には程遠い、けど。
課長から受け取った書類を、隣の席の積み上げられた書類の山の上にそっと加えた時だった。慌ただしく一人の男性が事務所内に駆け込んできた。
そして書類の山をかき分けて机の上に荷物を下ろした。
「セーフ!?」
「……アウトです。チャイム、聞こえませんでした?」
「必死だったから……」
落ちるようにイスに座ると息を切らしながら項垂れる。
彼の名前は宮下 明生(あきお)。この春に部署内で編成変更があって私は彼の下につくようになった。
中肉中背、身長も高くもなく低くもなく。春から係長に昇進したけど、それも早いわけでも遅いわけでもなく、普通にしていれば誰でもここまでは上がってくることができるらしい。元はエリートが集まる会社の中軸を担う部署にいたらしいのだけど、数年前に総務に飛ばされてきて今は上からは仕事を、下からは面倒を押し付けられる一番きつい中間管理職にいる。
目立つわけでもなく、他人と比べて特に秀でているところがあるわけじゃない。むしろダメな部分の方が際立つ彼だけど、私はそんな彼の下にいることを不満に思ったことはない。その理由は一言では語れない。
「宮下さん、怪我してません?」
「え……?」
手に擦り傷。よく見るとスーツも一部汚れている。おそらく急いで走って転んだのだろう。彼ならありえる。
「あぁ、うん。全然たいしたことな……イテッ!」
平気だということをアピールしてヒラヒラと振った手首を抑えて声を上げた。でもすぐに彼らしい締まりのないヘラヘラとした笑みを見せた。
「そうだ、さっき課長から……」
「ごめん、朝一で人事に行く用事があるんだ。あとでいい?」
「はい……」
宮下さんは机に置かれた内線用の携帯を手にとると慌ただしく事務所を出て行った。
そして書類の山をかき分けて机の上に荷物を下ろした。
「セーフ!?」
「……アウトです。チャイム、聞こえませんでした?」
「必死だったから……」
落ちるようにイスに座ると息を切らしながら項垂れる。
彼の名前は宮下 明生(あきお)。この春に部署内で編成変更があって私は彼の下につくようになった。
中肉中背、身長も高くもなく低くもなく。春から係長に昇進したけど、それも早いわけでも遅いわけでもなく、普通にしていれば誰でもここまでは上がってくることができるらしい。元はエリートが集まる会社の中軸を担う部署にいたらしいのだけど、数年前に総務に飛ばされてきて今は上からは仕事を、下からは面倒を押し付けられる一番きつい中間管理職にいる。
目立つわけでもなく、他人と比べて特に秀でているところがあるわけじゃない。むしろダメな部分の方が際立つ彼だけど、私はそんな彼の下にいることを不満に思ったことはない。その理由は一言では語れない。
「宮下さん、怪我してません?」
「え……?」
手に擦り傷。よく見るとスーツも一部汚れている。おそらく急いで走って転んだのだろう。彼ならありえる。
「あぁ、うん。全然たいしたことな……イテッ!」
平気だということをアピールしてヒラヒラと振った手首を抑えて声を上げた。でもすぐに彼らしい締まりのないヘラヘラとした笑みを見せた。
「そうだ、さっき課長から……」
「ごめん、朝一で人事に行く用事があるんだ。あとでいい?」
「はい……」
宮下さんは机に置かれた内線用の携帯を手にとると慌ただしく事務所を出て行った。