熱愛には程遠い、けど。
「あっぶなー……って、あ!」
ぱっと宮下さんが私の腕を離すと後ろへ下がり距離を取った。
「ごめん! 触っちゃった……腕」
「……えっと……ふふっ、あはは!」
いきなり手を握ってくる課長とは大違い。彼らしい態度に笑ってしまった。
「いいですよ、腕くらい。私だってさっき宮下さんの指触りましたし」
「はは、指!」
「下心があるのとないのとは全然違います」
「下心!?」
「あるんです?」
「な、ななないよ! あるわけないじゃん、さっきの状況で!」
「ふふふっ」
宮下さんとのおしゃべりは本当に楽しくて、部下の身で上司をからかってしまう。
「ありがとうございました」
笑顔でお礼を言うといつも通りの笑顔が返ってきた。やっぱ、いいな。
でもさっき私の腕を引いた手を力強くて、私をかばうように引き寄せた胸の中は男の人らしく広くて、宮下さんの匂いがして……やばい、また気持ちが高ぶってきた。
今すぐに自分の気持ちを伝えたい。でもまだ、自分の部屋には雅史さんにもらった指輪もある、だからまだ言えない。
「宮下さん、私」
「ん?」
「私……黒木さんと別れようと思ってます」
「え……?」
「宮下さんには話を聞いてもらったことがあるので一応、報告を……。ごめんなさい。相談に乗ったりしてもらったのに、それなのに」
「いや、自分はそんなの全然いいんだけど……驚いたな。でもなんで?」
「他に……好きな人ができたんです」
今はここまでが限界だ。
宮下さんは驚きの表情から徐々にいつも通りの穏やかな表情になると「そっか」と言った。
「仕方ないよね。そればっかりは……気持ちだけはね、誰かにどうこうできるもんじゃないし」
「……はい」
「でも古川さんが好きになる人ってどんな人だ? 黒木さんレベルかそれ以上か……ま、古川さんなら大丈夫だよ。次もきっとうまくいくさ!」
「なに言ってるんですか……自信ないですよ、いつも」
「そっちこそ何言ってんの! こっちはさぁ……毎日他の男社員の嫉妬を一身に受けて……みんな言ってるよ? 古川さんのことキレイだって。さっきの飲み会でだって、お前と一緒にいるのがもったいないって言われてさ! もったいないって……仕事で一緒なだけだっつうの」
「宮下さんだからですよ。ただからかわれてるだけじゃ……」
「今なにげに失礼なことを言ったよね」
「ごめんなさい」
「ま、でもさ古川さんが魅力的なところは外見じゃないよね。みんな分かってないんだよ」
「今なにげに失礼なこと……」
「ややや、ちがくて!」
自然とお互いに足が止まり、焦った様子で力説する宮下さんをただただ見つめていた。
「もちろん、外見もいいと思うんだけど……あの、ほら。取れたボタンをささっとつけてくれたり、さっきの絆創膏もそう。あぁいういことをさらっとやるけど計算ぽいいやらしさもなくて。要領よくて、気遣いもできて……」
ボタンも絆創膏も、宮下さんにしかしない。でももちろんそれは計算なんかじゃなくてただ相手のことを思ってやったことだ。こんなこと言われたのはじめてで、私のこと分かってよく見てくれているように感じて、嬉しくて、照れくさくて。色んな思いが入り混じって、彼の言葉を遮って何か言葉を発せずにはいられなくなった。
「ドキドキしてるってことですか?」
「するよ、するする! はっ、僕も他の男社員と一緒だ」
「あはは!」
「とにかく! 自信もって次もがんばって。きっと大丈夫。僕が保証しよう!」
「保証……言いましたね?」
早く自分の気持ちを伝えたい。自分の気持ちを伝えたらどんな反応をするのだろう。
応援されてる身で自信なんてまったくないけど、保証するとまで言ったんだから……断られたらなんて言ってやろうか。そんなことを思いながら駅までの道のりを歩いた。
ぱっと宮下さんが私の腕を離すと後ろへ下がり距離を取った。
「ごめん! 触っちゃった……腕」
「……えっと……ふふっ、あはは!」
いきなり手を握ってくる課長とは大違い。彼らしい態度に笑ってしまった。
「いいですよ、腕くらい。私だってさっき宮下さんの指触りましたし」
「はは、指!」
「下心があるのとないのとは全然違います」
「下心!?」
「あるんです?」
「な、ななないよ! あるわけないじゃん、さっきの状況で!」
「ふふふっ」
宮下さんとのおしゃべりは本当に楽しくて、部下の身で上司をからかってしまう。
「ありがとうございました」
笑顔でお礼を言うといつも通りの笑顔が返ってきた。やっぱ、いいな。
でもさっき私の腕を引いた手を力強くて、私をかばうように引き寄せた胸の中は男の人らしく広くて、宮下さんの匂いがして……やばい、また気持ちが高ぶってきた。
今すぐに自分の気持ちを伝えたい。でもまだ、自分の部屋には雅史さんにもらった指輪もある、だからまだ言えない。
「宮下さん、私」
「ん?」
「私……黒木さんと別れようと思ってます」
「え……?」
「宮下さんには話を聞いてもらったことがあるので一応、報告を……。ごめんなさい。相談に乗ったりしてもらったのに、それなのに」
「いや、自分はそんなの全然いいんだけど……驚いたな。でもなんで?」
「他に……好きな人ができたんです」
今はここまでが限界だ。
宮下さんは驚きの表情から徐々にいつも通りの穏やかな表情になると「そっか」と言った。
「仕方ないよね。そればっかりは……気持ちだけはね、誰かにどうこうできるもんじゃないし」
「……はい」
「でも古川さんが好きになる人ってどんな人だ? 黒木さんレベルかそれ以上か……ま、古川さんなら大丈夫だよ。次もきっとうまくいくさ!」
「なに言ってるんですか……自信ないですよ、いつも」
「そっちこそ何言ってんの! こっちはさぁ……毎日他の男社員の嫉妬を一身に受けて……みんな言ってるよ? 古川さんのことキレイだって。さっきの飲み会でだって、お前と一緒にいるのがもったいないって言われてさ! もったいないって……仕事で一緒なだけだっつうの」
「宮下さんだからですよ。ただからかわれてるだけじゃ……」
「今なにげに失礼なことを言ったよね」
「ごめんなさい」
「ま、でもさ古川さんが魅力的なところは外見じゃないよね。みんな分かってないんだよ」
「今なにげに失礼なこと……」
「ややや、ちがくて!」
自然とお互いに足が止まり、焦った様子で力説する宮下さんをただただ見つめていた。
「もちろん、外見もいいと思うんだけど……あの、ほら。取れたボタンをささっとつけてくれたり、さっきの絆創膏もそう。あぁいういことをさらっとやるけど計算ぽいいやらしさもなくて。要領よくて、気遣いもできて……」
ボタンも絆創膏も、宮下さんにしかしない。でももちろんそれは計算なんかじゃなくてただ相手のことを思ってやったことだ。こんなこと言われたのはじめてで、私のこと分かってよく見てくれているように感じて、嬉しくて、照れくさくて。色んな思いが入り混じって、彼の言葉を遮って何か言葉を発せずにはいられなくなった。
「ドキドキしてるってことですか?」
「するよ、するする! はっ、僕も他の男社員と一緒だ」
「あはは!」
「とにかく! 自信もって次もがんばって。きっと大丈夫。僕が保証しよう!」
「保証……言いましたね?」
早く自分の気持ちを伝えたい。自分の気持ちを伝えたらどんな反応をするのだろう。
応援されてる身で自信なんてまったくないけど、保証するとまで言ったんだから……断られたらなんて言ってやろうか。そんなことを思いながら駅までの道のりを歩いた。