熱愛には程遠い、けど。
試写会会場は、会社から徒歩で行ける距離の小劇場だった。古い建物で、隣との座席の距離も近い。
少し動けば肩が触れてしまう距離で観るのはコテコテの恋愛ドラマ。男女のストレートな恋愛表現と控えめだけど乙女心をぐっと掴むような綺麗なラブシーン。そしてラストはほろりと涙がこぼれ落ちそうになる感動シーン。流れ出すとまではいかなくても指でメイクが崩れないように目に溜まった涙を拭う。
エンドロールが流れると席を立つ人々の気配に自分もリラックスした姿勢を正し立ち上がろうとした時だった。
「……っ、うっ……」
隣の宮下さんが号泣していた。
「……あ。行こうか」
「あの……よかったらコレ、ハンカチ使ってください」
「ありがとう……」
ハンカチを手渡すと涙を拭った。
宮下さんらしいといえばらしいけど、あまりの泣きっぷりに失礼だと思いながらも込み上げてくる笑いを止められなかった。
「くっ……ふふ、ははは……宮下さん、それ、いくらなんでも泣きすぎじゃ……ふふふっ」
「だめだなんだよぉ~こういう映画。だから男とはもう絶対に行きたくなかったし、女性とだってこんな姿見られたくなかった……!」
「言ってくれればよかったのに。苦手だって、……でも、苦手ってわけではないか」
「まぁ……うん、そうなんだけど」
先に立ち上がった宮下さんに続いて立ち上がる。試写会を見ていた人々の流れに乗って外に出て、そのまま多くの人が向かうであろう駅方面に流れに乗ったまま足を進めた。
「あー、でも面白かったなぁ。古川さん、今日はありがとう」
「ふふ、へんなの。チケットくれたの宮下さんですよ?」
「あぁ、そうか」
「……迷惑でした? ちょっと強引だったかなって」
「そんなことない。でも……少し驚いた。とても観たい映画だったとか? 急だったから一緒に行ける人すぐには見つからないよね」
映画が見たかったわけじゃない。ただ、宮下さんと一緒に過ごせる時間を少しでも増やしたかっただけだ。
「でも、嬉しいな」
嬉しい、その言葉にまったく見当がつかなかった。
「古川さんと仲良くなれて」
「え……?」
「最初の頃、四月か。なかなか打ち解けられなくて、実は毎日緊張してたんだ」
「え……嘘」
「ほんと。元々古川さんのことは知っていたけど同じ部署にいても接点がなくて会話すら必用最低限したことなかったよね。でも四月から一緒の業務をするようになって……クールで他の女の子たちとは違う、なんかこう……私に近づくなってバリアを張ってるイメージがあったから、僕みたいなのがどうやって会話したらいいのかわからなくてさ」
「ごめんなさい。私昔から人と打ち解けるのに時間が……」
「うん。謝らないでよ! 分かってる。少しずつだけど打ち解けていくのがわかって、ほんとは気さくで、話しやすくて。今はほんとにそう思ってるよ。古川さんって真面目なんだよね~」
宮下さんの笑顔に、今は打ち解けられているのが伝わってきてほっとする。
「だから今日も昼にさ。古川さんが就職情報誌見てるの見て……寂しいなって思ったよ。あと半年くらいでお別れなのかって」
「……寂しいなって思ってくれてるんです?」
「そんなの当たり前じゃん!」
嬉しい。嬉しすぎて、さっきの映画では流れなかった涙が今なら気を緩めれば泣いてしまいそうだ。
少し動けば肩が触れてしまう距離で観るのはコテコテの恋愛ドラマ。男女のストレートな恋愛表現と控えめだけど乙女心をぐっと掴むような綺麗なラブシーン。そしてラストはほろりと涙がこぼれ落ちそうになる感動シーン。流れ出すとまではいかなくても指でメイクが崩れないように目に溜まった涙を拭う。
エンドロールが流れると席を立つ人々の気配に自分もリラックスした姿勢を正し立ち上がろうとした時だった。
「……っ、うっ……」
隣の宮下さんが号泣していた。
「……あ。行こうか」
「あの……よかったらコレ、ハンカチ使ってください」
「ありがとう……」
ハンカチを手渡すと涙を拭った。
宮下さんらしいといえばらしいけど、あまりの泣きっぷりに失礼だと思いながらも込み上げてくる笑いを止められなかった。
「くっ……ふふ、ははは……宮下さん、それ、いくらなんでも泣きすぎじゃ……ふふふっ」
「だめだなんだよぉ~こういう映画。だから男とはもう絶対に行きたくなかったし、女性とだってこんな姿見られたくなかった……!」
「言ってくれればよかったのに。苦手だって、……でも、苦手ってわけではないか」
「まぁ……うん、そうなんだけど」
先に立ち上がった宮下さんに続いて立ち上がる。試写会を見ていた人々の流れに乗って外に出て、そのまま多くの人が向かうであろう駅方面に流れに乗ったまま足を進めた。
「あー、でも面白かったなぁ。古川さん、今日はありがとう」
「ふふ、へんなの。チケットくれたの宮下さんですよ?」
「あぁ、そうか」
「……迷惑でした? ちょっと強引だったかなって」
「そんなことない。でも……少し驚いた。とても観たい映画だったとか? 急だったから一緒に行ける人すぐには見つからないよね」
映画が見たかったわけじゃない。ただ、宮下さんと一緒に過ごせる時間を少しでも増やしたかっただけだ。
「でも、嬉しいな」
嬉しい、その言葉にまったく見当がつかなかった。
「古川さんと仲良くなれて」
「え……?」
「最初の頃、四月か。なかなか打ち解けられなくて、実は毎日緊張してたんだ」
「え……嘘」
「ほんと。元々古川さんのことは知っていたけど同じ部署にいても接点がなくて会話すら必用最低限したことなかったよね。でも四月から一緒の業務をするようになって……クールで他の女の子たちとは違う、なんかこう……私に近づくなってバリアを張ってるイメージがあったから、僕みたいなのがどうやって会話したらいいのかわからなくてさ」
「ごめんなさい。私昔から人と打ち解けるのに時間が……」
「うん。謝らないでよ! 分かってる。少しずつだけど打ち解けていくのがわかって、ほんとは気さくで、話しやすくて。今はほんとにそう思ってるよ。古川さんって真面目なんだよね~」
宮下さんの笑顔に、今は打ち解けられているのが伝わってきてほっとする。
「だから今日も昼にさ。古川さんが就職情報誌見てるの見て……寂しいなって思ったよ。あと半年くらいでお別れなのかって」
「……寂しいなって思ってくれてるんです?」
「そんなの当たり前じゃん!」
嬉しい。嬉しすぎて、さっきの映画では流れなかった涙が今なら気を緩めれば泣いてしまいそうだ。