熱愛には程遠い、けど。
「あれだ。古川さんが恋愛相談してきた時期、あのくらいから一気に打ち解けられたような気がするなぁ。よく笑うようになって……」
「……あ」
「あ、あれ? ごめん! なんか変なこと言ってるかな?」
「え……?」
「いや……なんか古川さん顔が赤いような気がするんだけど……こんな暗がりでも、分かるくらいに……」
「……っ!」
 恥ずかしすぎて顔が上げられない。途切れた会話に気まずい雰囲気が流れ出す。せっかく宮下さんが色々お話してくれていたのに。
「宮下さんは! 宮下さんは、どんな恋愛してきたんですか……?」
「は?」
「私ばっかりなんで……今日は、聞いてあげます」
 最悪……なにこの上からな感じは! 穴があったら入りたい。
「……っ、ははっ! うん、じゃあ……聞いてもらおうかな。今は、絶賛彼女募集中!」
「知ってます」
「え……? ま、まぁ、そうだよね。女っ気ないよねぇ。いやぁ、もう三十過ぎてるしさ、なんとかしなきゃとは思ってるんだけど」
「なんとかしなきゃって……?」
「どっちかというとさ、今までの恋愛は女性にリードされてることが多かった。知っての見ての通り、こんなだからさ。でももうガツガツいくような歳でもないと思うし、次が最後かなって思う」
「最後?」
「うん。最後の恋愛にしたい。だから最後くらいさ。自分から気持ちを伝えることくらいしたいと思ってるんだ」
 最後の恋……その最後の恋に、自分が選ばれる可能性はどれくらいあるのだろうか。
 ただ一つ分かったこと。待つしか、ないんだ。
「宮下さんってモテるんですね」
「えええ! なぜ!?」
「だって、待ってれば女の方から来てくれる人生だったんでしょ?」
「違う違う! 多くないよ? 恋愛経験」
「私は宮下さん好きです」
「……えっ」
「上司として最高です」
「あ、あぁ、……そうか! うん、ありがとう! 嬉しい」
 照れくさそうに、本当に嬉しそうに笑うから。そのすべてを自分のものにしたい、独り占めにしたいって思ってしまう。
「お腹空いたな~。ラーメンでも食べにいかない?」
「行きたいです!」
「よし! ついてくるんだ!」
「はい!」
 小走りで二、三歩進んだところで同時に吹き出した。
「なんだか今日の古川さんノリが良すぎるよぉ~! 笑える!」
「宮下さんのテンションが高すぎません!?」
 夜の街に響く二つの笑い声。
 待ってみよう。前向きに。振り向いてもらえるよう、がんばろう。足を進めた宮下さんの背中を追いながらそう思った。

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