熱愛には程遠い、けど。

13 甘さゼロ、でも

― 一年後 -

「起きてー! 朝だよ!」
「……ん、うーん……」
 返事らしきものはあったけどすぐに沈黙。まったく起きる気配がない。
「大変! 遅刻しちゃう!」
「……はっ! やばい!」
「って嘘でしたー。今日はお休みでーす」
 寝ぼけ眼のまま飛び起きた彼氏に向かって得意気に笑って見せる。
「ぬ……まただまされた」
「明生君、これにひっかかるの何度目? こうでもしないと起きないのが悪いんだから。十回は声かけたんだからね」
 休日前の昨夜は私の部屋にお泊り。こうして一緒に朝を迎えるのはもう何度目だろう。
「良い匂いがする」
「ご飯作ったの。冷めちゃうよ、早く起きて」
 まさか自分が彼氏のために朝ごはんを作る日がくるなんて。相手に尽くされることの方が多かった私にとってははじめての経験だった。
 いつの間にか私の部屋には食器もお箸も二セットずつ。色違いのコップにお茶をいれてテーブルに置き、エプロンをはずしてイスに座った。準備は万端、それなのに肝心の明生君が起きてこない。
「もう、いいかげんに……」
「見えた……」
「はい?」
 明生君はさっき起きた時の体勢のままじっと私の方を見つめていた。
「見えたって……なに? オバケ?」
「杏奈との未来」
「はぁ?」
「杏奈、結婚しよ」
 真顔のまま表情一つ変えずそう告げられ、私も同じく真顔のまま固まった。
「……突然、な、なに言ってるの……本気?」
「本気。朝起きて、杏奈いて、朝ごはんの匂いがしたらもう」
「……ご飯なんて今まで何度も」
「うん。でもなんか、急に……この熱い気持ちを伝えなくちゃという衝動にかられて……!」
「……っ」
 拳を握りしめたまらず私は立ち上がった。

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