熱愛には程遠い、けど。

02 大好き、なのに

 定時のチャイムが鳴ると同時に事務所内の多くの女性が席を立つ。
 私たち契約社員はコストカットのため残業をしないことが暗黙のルール。残業がない。言い換えれば残業代が出ない。そのためチャイムが鳴ると同時に席を立とうが嫌な顔をする社員は一人もいない。
「あぁ、もう時間か。お疲れ、古川さん。さっさと帰りなね」
 隣の上司に声をかけられてキーを叩く指が止まる。
「……別に、私はいいんですよ? ほんと、遠慮しないで手伝えることがあれば言ってくださいね」
「うん。ありがとう。古川さんにはいつも助けてもらって……すごく感謝してる」
 宮下さんは申し訳なさそうにしながらも最後に微笑んだ。
 時々、宮下さんの仕事が立て込んでいる時は少し残業することがある。残業と言っても、ギリギリ残業代がつかない三十分直前でタイムカードを切る。それを宮下さんは申し訳なく思っているようだけど、私はまったく苦にならない。むしろ、いつも仕事を残して帰るのが申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「じゃあ、お先に失礼します」
「うん。また明日」
 申し訳ない気持ちを胸の中に抱えながらも、いつもより手際よくデスクの上を片付けて事務所を出た。
 今日は定時後に予定があった。

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