熱愛には程遠い、けど。
 次の日、雅史さんの家に泊まった私はそのまま彼の家から出勤した。いつもより早い時間に会社に着き、すでに早朝から仕事をしている他の社員がいる中で自席で始業までの時間を潰すのも居心地が悪いと思い用もないのに手洗いに寄った。
 誰もいない手洗い内で、鏡の前に立ってカバンの中をそっと覗く。中には、昨日雅史さんから受け取ったリングケース。あのプロポーズは夢ではなかったのだ。
 今、私の中には二つの気持ちが行き交っている。嬉しい気持ちと、結婚を決めれない踏みとどまる気持ち。
 なぜだろう。彼のことは大好きだし、彼以上の人はいないと思っている。
 プロポーズが突然だったからまだ気持ちの整理がつかないだけ? 自分がまだ結婚を意識していないから? まだ年齢的にも結婚を焦る歳じゃないから? これが、三十を超えていたらまた違っていたのかな?
 いろんな疑問が頭を次々に過るだけで答えは見えない。少し、パニック状態に陥っているようだ。
 いったん落ち着こう。焦る必要はないのだ。彼は待ってくれると言ってくれた。でも、いつまでも待たされわけにはいかないし……
 考えても考えても深みにはまるだけで出口は見えない。
 結局私はすぐに手洗いをあとにして、その後はまっすぐに仕事場へと向かった。

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