Beautiful Life ?
「? どうしたの?」
「実はお人よしなパパだけど、まさかずっといていいなんて言うとは思わなかった」 
「うん、私もそこまで親切にしてもらって悪いなって思ってて……。えっと、どうしたの? 急に」
「今私、どきどきすること考えちゃった」
「え?」
「パパ、なかなかカッコいいでしょう?」

 うんと素直に頷きそうになるところを踏みとどまる。目を輝かせたリアが何を言おうとしているか予想がついたからだ。

「リアが期待することは何もないよ。だいたい、昨日出会ったばかりの人で……」
「私、何も言ってないよ?」
「もう、大人をからかわないで」
「あはは、ごめーん」

 リアは無邪気に笑うと小さくため息を吐いた。そしてぼそりと呟く。

「期待はしない。だって、パパはきっと」
「ママ一筋、なんだっけ?」
「うん」
「いいことじゃない」

 亡くなってもなお一人の女性を愛し続けるなんて素敵な話。奥さんが羨ましいと絵里は思った。

「昨日パパはきっとママを永遠に愛し続けるって言ってたリア、とても幸せそうな顔してたよ。永遠ってあるのかなって言ってたリアの疑問の答えが、そこにあるじゃない」
「うん、そうなんだけど……。ちょっとだけ、フクザツ」
「複雑……?」

 どうして? そう問いかけようとすると部屋の扉が開く音して二人の視線がそちらに向けられた。リアは「おかえりなさい」と言うと背を向けて冷蔵庫を開けた。
 絵里も辻合と目が合うと「おかえりなさい」と小さく頭を下げた。たった今リアが変な疑いをかけたからだろうか。「ただいま」の一言で小さく胸が跳ねた。

「しまった。卵買い忘れちゃった」
「卵ね、私が買って来るわ。ちょっと待ってて」

 絵里は辻合と入れ違いで部屋を出た。
 絵里は苦しい結婚生活から解放され自由になったばかりだ。いくらなんでもまだ誰かに恋をするのは早すぎると思っていた。しかも相手は好きになっても叶わないことが分かっている男。一時的な感情に振り回されても後々自分の首を締めるようになることは目に見えていた。
 絵里は諦めたようにふっと小さく微笑みながら頭を横に振って前を向くと近所のスーパーへ向かった。

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