Beautiful Life ?
09話
絵里の帰国が翌日に迫った日の朝、着替えを終えたエリが部屋で簡単に荷物の整理をしているとリアがやってきた。
「おはようエリ! って、わぁ! 荷物、来た時の倍くらいになってるね」
「うん。今からちょっとずつ整理していかないと」
「税関で引っかかったりして」
「その時はその時よ」
お金を気にせず好きなものを好きなだけ買う。一生に一度かもしれない贅沢を味わえて絵里は満足していた。
「おはようリア。どうしたの? 何か用?」
リアは「うん」と頷くとベッドに腰掛けた。
「エリ明日帰っちゃうんだね。寂しいな」
「寂しいね。今日の予定は? 空いてるなら私と……」
「せっかくなんだけど……最後の日なのに、昼から予定を入れちゃったの」
「そっか。仕方ないね。じゃあ夜……」
「今日はそのまま友達の家にお泊りなんだ」
「そう……残念だね、仕方ないけど」
寂しいと言いながら最後の夜にわざわざ友達との予定を入れたのだろうか。もともと決まっていた予定なら仕方ないが、絵里は少し不自然に感じていた。
「ねぇ、エリ。コレ」
リアは胸元に光るシルバーのネックレスに手を添えた。誕生日に辻合からプレゼントされたものだ。
「コレ、エリが選んでくれたんだってね」
「違うわよ。私は選ぶのを手伝っただけよ」
リアは絵里と目を合わせるとニコッとはにかんで「ありがとう」と言った。絵里はそのリアの表情を見て思わず「似てる」と心の中で呟いた。いつも目を合わせた瞬間、にこっと控えめに微笑む辻合の表情が重なって見えたのだ。
親子なのだから似ているのは当たり前なのに絵里は咄嗟に先日の辻合と過ごした時間を思い出して動揺した。
「ねぇ、エリ。わたしね、わたしのママは一人だしママ以外の人が自分のママになるなんて考えられななかったの。だからパパがずっとママ一筋でいてくれるのは嬉しかったんだけど」
リアは一つ間をおいてからじっと絵里を見据えた。
「でも自分が大人になるにつれて、パパがこれから先も一人でいるのだと思うとなぜだか無性に寂しい気持ちになるようになったの」
「リア……」
リアが何を言おうとしているのか。絵里は聞かずとも理解できた。
「だから私、パパがママ以外に大切な人を連れてきたって今なら受け入れられるわ!」
リアの期待を込めた気持ちにすぐに答えを出すことは出来なかったが、絵里は何か言わなくてはと口を挟もうとした。しかしリアに手を取られ「お昼までまだ時間はあるわ! 一緒に出かけしましょうよ! ね!」と明るく言われ流されるように頷く。そしてそのまま準備をしてくると言い部屋を出て行くリアの背中を見送った。
リアに自分の気持ちに正直になるべきだと背中を押されているような気がした。
もしかしたらあの夜の辻合との会話をリアは聞いていたのかもしれない。普段、辻合と接している自分の言動を見て彼に好意的な自分の気持ちを見ぬかれてしまったのかもしれない。絵里は様々な憶測をしながら自分も外出の準備を始めた。
ニューヨーク最後の夜、絵里はエンパイア・ステート・ビルの展望台にいた。目の前に広がる夜景を見ながら、ニューヨークでの一週間のことを思い返していた。
ここへ来たばかりの時は、初日にこの展望台からの素晴らしい景色を見下ろしてこれからの人生に期待を膨らませるんだって意気込んでいたっけ。絵里はふっと小さく口元を緩める。
目の前に広がるのは宝石箱を覗いているようかのようなキラキラとした綺麗な夜景。明日からの自分の人生はこの夜景のようにキラキラとした輝かしいものになるのだろうか。
「なりっこない」
小さな呟き。絵里にとってニューヨーク(ここ)へは自由になって羽を伸ばしにひと時の夢を見にきたようなものだった。夢の時間はもう終わり。
絵里は真っ直ぐに前を見据え大きな歩幅でその場をあとにした。
「おはようエリ! って、わぁ! 荷物、来た時の倍くらいになってるね」
「うん。今からちょっとずつ整理していかないと」
「税関で引っかかったりして」
「その時はその時よ」
お金を気にせず好きなものを好きなだけ買う。一生に一度かもしれない贅沢を味わえて絵里は満足していた。
「おはようリア。どうしたの? 何か用?」
リアは「うん」と頷くとベッドに腰掛けた。
「エリ明日帰っちゃうんだね。寂しいな」
「寂しいね。今日の予定は? 空いてるなら私と……」
「せっかくなんだけど……最後の日なのに、昼から予定を入れちゃったの」
「そっか。仕方ないね。じゃあ夜……」
「今日はそのまま友達の家にお泊りなんだ」
「そう……残念だね、仕方ないけど」
寂しいと言いながら最後の夜にわざわざ友達との予定を入れたのだろうか。もともと決まっていた予定なら仕方ないが、絵里は少し不自然に感じていた。
「ねぇ、エリ。コレ」
リアは胸元に光るシルバーのネックレスに手を添えた。誕生日に辻合からプレゼントされたものだ。
「コレ、エリが選んでくれたんだってね」
「違うわよ。私は選ぶのを手伝っただけよ」
リアは絵里と目を合わせるとニコッとはにかんで「ありがとう」と言った。絵里はそのリアの表情を見て思わず「似てる」と心の中で呟いた。いつも目を合わせた瞬間、にこっと控えめに微笑む辻合の表情が重なって見えたのだ。
親子なのだから似ているのは当たり前なのに絵里は咄嗟に先日の辻合と過ごした時間を思い出して動揺した。
「ねぇ、エリ。わたしね、わたしのママは一人だしママ以外の人が自分のママになるなんて考えられななかったの。だからパパがずっとママ一筋でいてくれるのは嬉しかったんだけど」
リアは一つ間をおいてからじっと絵里を見据えた。
「でも自分が大人になるにつれて、パパがこれから先も一人でいるのだと思うとなぜだか無性に寂しい気持ちになるようになったの」
「リア……」
リアが何を言おうとしているのか。絵里は聞かずとも理解できた。
「だから私、パパがママ以外に大切な人を連れてきたって今なら受け入れられるわ!」
リアの期待を込めた気持ちにすぐに答えを出すことは出来なかったが、絵里は何か言わなくてはと口を挟もうとした。しかしリアに手を取られ「お昼までまだ時間はあるわ! 一緒に出かけしましょうよ! ね!」と明るく言われ流されるように頷く。そしてそのまま準備をしてくると言い部屋を出て行くリアの背中を見送った。
リアに自分の気持ちに正直になるべきだと背中を押されているような気がした。
もしかしたらあの夜の辻合との会話をリアは聞いていたのかもしれない。普段、辻合と接している自分の言動を見て彼に好意的な自分の気持ちを見ぬかれてしまったのかもしれない。絵里は様々な憶測をしながら自分も外出の準備を始めた。
ニューヨーク最後の夜、絵里はエンパイア・ステート・ビルの展望台にいた。目の前に広がる夜景を見ながら、ニューヨークでの一週間のことを思い返していた。
ここへ来たばかりの時は、初日にこの展望台からの素晴らしい景色を見下ろしてこれからの人生に期待を膨らませるんだって意気込んでいたっけ。絵里はふっと小さく口元を緩める。
目の前に広がるのは宝石箱を覗いているようかのようなキラキラとした綺麗な夜景。明日からの自分の人生はこの夜景のようにキラキラとした輝かしいものになるのだろうか。
「なりっこない」
小さな呟き。絵里にとってニューヨーク(ここ)へは自由になって羽を伸ばしにひと時の夢を見にきたようなものだった。夢の時間はもう終わり。
絵里は真っ直ぐに前を見据え大きな歩幅でその場をあとにした。