Beautiful Life ?
「連絡先なら朝リアと交換したわ! 用があったらいつでも電話して? 用がなくても大歓迎よ! それにまた絶対に遊びにくるつもりだし、嫌だって言われても勝手にまた……」
「そんな、色気のない話をしてるんじゃないんだ」
でもじわりじわりと自分の心に踏み込んでくる辻合の言葉に少しずつエリの表情も曇ってくる。
「声、だけなら電話で……」
「いや、声だけじゃ物足りない」
引き込むような声と眼差しに心を奪われそうになる。絵里は無意識に唇を噛みしめた。笑顔が消え固くなったエリの表情を和らげるように辻合が優しく微笑みかける。そして視線を外しゆっくりと口を開いた。
「リアに言われたよ。「パパ、エリのこと好きでしょ」って」
「え……」
「さすが娘だね。俺の小さな態度の変化も、誰を見ているかも敏感に感じとっていたようだよ」
絵里は今朝のリアとの会話を思い出す。
リアは絵里だけではなく辻合の気持ちも感じ取り二人きりになる時間を作り出してくれたのだ。
「しかも、「今自分の気持ちに正直にならないと絶対後悔するからね」って説教までされた」
リアとの会話を思い出し小さく吹き出す辻合につられて一瞬だけ絵里の表情も和らぐ。
「リアの言う通りだ。今日このまま何も伝えないで別れたら俺は一生後悔する」
ちょっと待って。
絵里はそう頭の中で呟いても口から言葉は出なかった。心は、辻合の言葉の続きを待っていた。
「君が好きだ」
シンプルだけど真っ直ぐなその言葉に胸が大きく高鳴る。泣きそうになるほど嬉しかった。
絵里は本当ならすぐにでも目の前の男の胸に飛び込んでしまいたかった。でも心の片隅にある自分が出した決断がくすぶって身体が動かない。口から出るのは逃げ道を探すような言葉ばかり。
「でも、私あなたの名前も知らないし」
「敬一(けいいち)だ」
「あなたのことまだ何も知らないし」
「まだ一晩ある」
動揺する絵里とは違ってはっきりとした態度でぐいぐいと攻め込んでくる辻合を今の絵里が拒むことができるはずがなかった。
「君の気持ちを聞かせてくれないか」
真っ直ぐな瞳から逃げ出すこともできなかった。久々に感じる、いや今までに感じたことのないようなときめきに高鳴る胸の鼓動を無視することなんて出来なかった。絵里はこの一週間過ごした夢のようなひと時の中にもう少しだけ身を置いてみたいと思った。
ただ「私もあなたが好き」という言葉だけ。頭の中ではいくらでも伝えられるのに口に出して伝えることは出来なかった。
立ち上がると腕を引かれ目の前の広い胸に包まれた。
絵里の瞳にうっすらと浮かぶ涙。涙を見られたくなくて顔を押し付けた胸から伝わる体温がとても温かかった。人肌に触れてこんなにもほっとする居心地のいいひと時を過ごすのはいつ以来だろう。ずっと続けばいいのに。ずっとずっと覚めなければいいのに。
絵里はそっと瞳を閉じる。そんな絵里を静かに、力強く抱きしめる辻合。絵里のどこか重々しい空気は伝わっていた。だがこの時の辻合に、絵里の深い心の傷を想像することも知る由もなかった。この腕にだいているのになぜか遠く、儚く感じてただ絵里を抱きしめる腕に力を込めることしかできなかった。
それぞれの思いを胸にただただ二人はきつく抱きしめあった。
「そんな、色気のない話をしてるんじゃないんだ」
でもじわりじわりと自分の心に踏み込んでくる辻合の言葉に少しずつエリの表情も曇ってくる。
「声、だけなら電話で……」
「いや、声だけじゃ物足りない」
引き込むような声と眼差しに心を奪われそうになる。絵里は無意識に唇を噛みしめた。笑顔が消え固くなったエリの表情を和らげるように辻合が優しく微笑みかける。そして視線を外しゆっくりと口を開いた。
「リアに言われたよ。「パパ、エリのこと好きでしょ」って」
「え……」
「さすが娘だね。俺の小さな態度の変化も、誰を見ているかも敏感に感じとっていたようだよ」
絵里は今朝のリアとの会話を思い出す。
リアは絵里だけではなく辻合の気持ちも感じ取り二人きりになる時間を作り出してくれたのだ。
「しかも、「今自分の気持ちに正直にならないと絶対後悔するからね」って説教までされた」
リアとの会話を思い出し小さく吹き出す辻合につられて一瞬だけ絵里の表情も和らぐ。
「リアの言う通りだ。今日このまま何も伝えないで別れたら俺は一生後悔する」
ちょっと待って。
絵里はそう頭の中で呟いても口から言葉は出なかった。心は、辻合の言葉の続きを待っていた。
「君が好きだ」
シンプルだけど真っ直ぐなその言葉に胸が大きく高鳴る。泣きそうになるほど嬉しかった。
絵里は本当ならすぐにでも目の前の男の胸に飛び込んでしまいたかった。でも心の片隅にある自分が出した決断がくすぶって身体が動かない。口から出るのは逃げ道を探すような言葉ばかり。
「でも、私あなたの名前も知らないし」
「敬一(けいいち)だ」
「あなたのことまだ何も知らないし」
「まだ一晩ある」
動揺する絵里とは違ってはっきりとした態度でぐいぐいと攻め込んでくる辻合を今の絵里が拒むことができるはずがなかった。
「君の気持ちを聞かせてくれないか」
真っ直ぐな瞳から逃げ出すこともできなかった。久々に感じる、いや今までに感じたことのないようなときめきに高鳴る胸の鼓動を無視することなんて出来なかった。絵里はこの一週間過ごした夢のようなひと時の中にもう少しだけ身を置いてみたいと思った。
ただ「私もあなたが好き」という言葉だけ。頭の中ではいくらでも伝えられるのに口に出して伝えることは出来なかった。
立ち上がると腕を引かれ目の前の広い胸に包まれた。
絵里の瞳にうっすらと浮かぶ涙。涙を見られたくなくて顔を押し付けた胸から伝わる体温がとても温かかった。人肌に触れてこんなにもほっとする居心地のいいひと時を過ごすのはいつ以来だろう。ずっと続けばいいのに。ずっとずっと覚めなければいいのに。
絵里はそっと瞳を閉じる。そんな絵里を静かに、力強く抱きしめる辻合。絵里のどこか重々しい空気は伝わっていた。だがこの時の辻合に、絵里の深い心の傷を想像することも知る由もなかった。この腕にだいているのになぜか遠く、儚く感じてただ絵里を抱きしめる腕に力を込めることしかできなかった。
それぞれの思いを胸にただただ二人はきつく抱きしめあった。