Beautiful Life ?
 店で過ごしたのは二時間ほど。絵里を自宅まで送り届ける車中の雰囲気は、店に向かう前の雰囲気とは違った。食事をして打ち解けた二人の会話は途切れることがなく、絵里の自宅までの時間があっという間に感じた。

「今日はありがとう。とても楽しかったわ。ご飯も美味しかったし」
「こっちこそ楽しかった。小坂さんが明るいのは知ってたけど、酔うと一段と陽気になって面白かった」
「面白い? やだ。恥ずかしいな」
「ははっ」

 会話をしながら時々ちらりと向ける視線の先の横顔を見ながら、絵里はまだどこか実感が沸かない気分でいた。
 学生時代に憧れた人物の運転する車で二人きり。食事をして、自宅に送り届けてもらうなんて。夢に見た未来が現実になっている。絵里は頬を軽くつねってみた。

「何してんの?」

 隣からの視線に気づいた西野が絵里の不可解な行動に笑いながらツッコミを入れる。絵里は「ううん」と言い前を向いた。

「あ、次の信号を右に曲がったところが私の家」

 右折の前に赤信号で止まる。

「互いの家、結構近いんだ。知らなかった」
「うん、車だと特にそう感じるね。あ、でも西野君はどこに住んでいるの? ウチ、病院からは近いけど」
「自宅も病院の近くだよ」

 歩行者が目の前の横断歩道を歩く。小走りになる人々を見てもうすぐ信号が青に変わるのを悟る。

「また誘ってもいい?」

 二度目の西野からの誘い。
 疎遠になって会わなくなった多くの同級生。今絵里が連絡を取り合えるのは美景くらいだった。だから数少ない同級生との再会も、付き合いも、離婚して一人身になった絵里にとっては喜ばしいことだった。

「えぇ、もちろん」

 振り向いて快くそう伝えると、西野が形のいい綺麗な瞳を僅かに細め、優しい笑みを浮かべながら言った。

「次も二人で」

 信号が青になり車が動き出す。
 次も二人で。もしかして、今日美景を誘おうとしたことについての牽制だろうか。でも今の絵里に真っ先にこの思考が働くことはなく、そう気づいたのは自宅に着いてしばくしたあと。今はただ、頭の中が真っ白になってこくりと頷く以外ろくに返事もすることが出来なかった。

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