Beautiful Life ?

　松永に礼を言い頭を下げ、他の社員にも挨拶をしてバーの外に出て空を見上げる。

「酔っ払いのオジサンの相手一つできないなんて……社会人失格だわ、私」

　昔だったらさっとかわすことも、笑ってやり過ごすことだって出来たのに。絵里は自己嫌悪に陥っていた。
　肩を落とし、地下鉄の駅までの道のりをゆっくりと歩く。夜の繁華街はきらびやかで明るいけど、一人で歩くのはどこか心細さを感じる。
　地下鉄の駅を目の前にして、携帯の着信音が鳴っていることに気づく。着信の相手は西野だった。

「もしもし？」
「ごめん、いきなり電話して。返事がなかったから……もしかして、まだ外？」
「あぁ、うん。今日、仕事のあと歓迎会を開いてもらってたの。返事できなくてごめんなさい」
「そんなのは全然いいんだけど……まだ外なら、迎えに行こうか」
「ありがとう。でももう家の前なの」
「そっか、それなら、うん。疲れただろ？　ゆっくり休んで」
「うん。おやすみなさい」

　手短に会話を切り上げ電話を切る。西野の気遣いは嬉しい。
　しかし迎えにくると言ってくれた西野の厚意を、嘘をついて絵里は断った。
　今は誰にも、西野にすら会いたくなかった。