Beautiful Life ?
「刺激とときめきだけを楽しむ男女の関係なんて。そんなの恋じゃないわ。セフレじゃない。セフレが欲しいの?」
「……それは」
「絵里には似合わない。好きだから悩むし、せつなさに胸がきゅうっとなったり。恋ってそういうものよ。絵里は、ただ逃げてるだけだよ」
じっと絵里を見つめはっきりと断言する美景と目を合わせた絵里は「分かっているの」とぼそりと呟く。
「ほんとうは、誰かを愛するのも誰かに愛されるのも怖いだけなの」
絵里は8年間の結婚生活を思い出す。二度とあんな日々は送りたくない。
「……美景の言う通りよ。私は、前向きなふりをして逃げてるだけなの。言葉だけでも前を向いてないと自分じゃなくなっちゃうみたいで怖くて」
続いて離婚後の自分を思い浮かべると同時にニューヨークの恋を思い出す。恋をすると前向きな発言をしていても、自分の気持ちに気づいた途端に逃げ出したくなった。
暗くなった雰囲気を払しょくしようと絵里は無理矢理笑みを作る。
「あーあ。少し、恋はお休みするべきだったな」
「恋心のコントロールは無理よ」
「……そうね」
松永に触れられたときに気が付いた。自分が酷く男性に嫌悪感を覚えていることを。しかしそれでも、惹かれる人間には惹かれてしまう。
「だって今はまた、西野君のことが気になってるんでしょう?」
「……それは」
「会ってみれば? それとも会いたくない?」
会いたいか、会いたくないか。答えはすぐに出た。
「会いたい」
会いたいという絵里の気持ちに嘘偽りはなかった。
会えば少しの緊張感。それも一緒にいるうちにあっという間に彼の穏やかな雰囲気に居心地の良さを感じるようになる。会話をしていても真っ直ぐで誠実な様がひしひしと伝わり昔好きだったころを思い出すと胸が小さく高鳴る。そして今も昔と同じような胸の高鳴りと、それに加えて少しのチクチクとした痛みを絵里は感じていた。
「私、彼にまだ過去に結婚をしていたってことを打ち明けていないの」
「そう」
「最初は打ち明けることに何の戸惑いも感じなかったんだけど、タイミングを逃して。そしてそのまま会っていくうちにどんどん言いたくなくなってきちゃって」
絵里は膝に置いた手を合わせて握りしめた。
「離婚だけならいい。でも離婚理由を話したら、傷ついた可哀そうな女だと幻滅されてしまうと思って。胸が、苦しくなって……」
西野が昔に憧れていたと言った自分と、今の自分は違う。
そっと添えられる手。絵里は自分の手に添えられた美景の手を見ながら言った。
「……うん。逃げない。ちゃんと話す。まずは、それからだよね」
「きっと、受け入れてくれるわ。過ぎた過去ひとつで絵里の魅力が下がったりなんかしない」
「……ありがとう、美景」
絵里が美景の自宅をあとにする頃、陽は傾きかけ空は薄暗くなりはじめていた。
美景に礼を言い、その足で西野のクリニックへ向かった。
土曜日の診療は午前中のみ。西野がその場にいる確率は低かったが、自宅の場所を知らない絵里が彼に会える可能性が少しでもある場所はそこしかなかった。案の定、クリニック前には本日の営業は終了しましたというカードが立てられ、建物の中の明かりは落ち人の気配はない。
絵里はクリニックに背を向けその場をあとにしながらバッグから携帯を取りだした。
しばらく西野に会いたくない日々が続いていた。憧れていたあの頃はただ見ていることしか出来なかった。話す機会があっても緊張してうまく話すことができなかっただろう。しかし長い年月を経て再会し自然体で彼と接することができるようになった今、彼のマメなところや優しさ、気遣いを身を持って知った。一緒にいて居心地のいい人物だとはじめて知った。積極的なアプローチに何度も動揺した。
絵里は再び彼に惹かれた。だから傷つくのが怖くて、本当の自分を知ったら彼に愛想をつかされるのが怖かったのだ。
「……それは」
「絵里には似合わない。好きだから悩むし、せつなさに胸がきゅうっとなったり。恋ってそういうものよ。絵里は、ただ逃げてるだけだよ」
じっと絵里を見つめはっきりと断言する美景と目を合わせた絵里は「分かっているの」とぼそりと呟く。
「ほんとうは、誰かを愛するのも誰かに愛されるのも怖いだけなの」
絵里は8年間の結婚生活を思い出す。二度とあんな日々は送りたくない。
「……美景の言う通りよ。私は、前向きなふりをして逃げてるだけなの。言葉だけでも前を向いてないと自分じゃなくなっちゃうみたいで怖くて」
続いて離婚後の自分を思い浮かべると同時にニューヨークの恋を思い出す。恋をすると前向きな発言をしていても、自分の気持ちに気づいた途端に逃げ出したくなった。
暗くなった雰囲気を払しょくしようと絵里は無理矢理笑みを作る。
「あーあ。少し、恋はお休みするべきだったな」
「恋心のコントロールは無理よ」
「……そうね」
松永に触れられたときに気が付いた。自分が酷く男性に嫌悪感を覚えていることを。しかしそれでも、惹かれる人間には惹かれてしまう。
「だって今はまた、西野君のことが気になってるんでしょう?」
「……それは」
「会ってみれば? それとも会いたくない?」
会いたいか、会いたくないか。答えはすぐに出た。
「会いたい」
会いたいという絵里の気持ちに嘘偽りはなかった。
会えば少しの緊張感。それも一緒にいるうちにあっという間に彼の穏やかな雰囲気に居心地の良さを感じるようになる。会話をしていても真っ直ぐで誠実な様がひしひしと伝わり昔好きだったころを思い出すと胸が小さく高鳴る。そして今も昔と同じような胸の高鳴りと、それに加えて少しのチクチクとした痛みを絵里は感じていた。
「私、彼にまだ過去に結婚をしていたってことを打ち明けていないの」
「そう」
「最初は打ち明けることに何の戸惑いも感じなかったんだけど、タイミングを逃して。そしてそのまま会っていくうちにどんどん言いたくなくなってきちゃって」
絵里は膝に置いた手を合わせて握りしめた。
「離婚だけならいい。でも離婚理由を話したら、傷ついた可哀そうな女だと幻滅されてしまうと思って。胸が、苦しくなって……」
西野が昔に憧れていたと言った自分と、今の自分は違う。
そっと添えられる手。絵里は自分の手に添えられた美景の手を見ながら言った。
「……うん。逃げない。ちゃんと話す。まずは、それからだよね」
「きっと、受け入れてくれるわ。過ぎた過去ひとつで絵里の魅力が下がったりなんかしない」
「……ありがとう、美景」
絵里が美景の自宅をあとにする頃、陽は傾きかけ空は薄暗くなりはじめていた。
美景に礼を言い、その足で西野のクリニックへ向かった。
土曜日の診療は午前中のみ。西野がその場にいる確率は低かったが、自宅の場所を知らない絵里が彼に会える可能性が少しでもある場所はそこしかなかった。案の定、クリニック前には本日の営業は終了しましたというカードが立てられ、建物の中の明かりは落ち人の気配はない。
絵里はクリニックに背を向けその場をあとにしながらバッグから携帯を取りだした。
しばらく西野に会いたくない日々が続いていた。憧れていたあの頃はただ見ていることしか出来なかった。話す機会があっても緊張してうまく話すことができなかっただろう。しかし長い年月を経て再会し自然体で彼と接することができるようになった今、彼のマメなところや優しさ、気遣いを身を持って知った。一緒にいて居心地のいい人物だとはじめて知った。積極的なアプローチに何度も動揺した。
絵里は再び彼に惹かれた。だから傷つくのが怖くて、本当の自分を知ったら彼に愛想をつかされるのが怖かったのだ。