Beautiful Life ?
(でも何度も同じことを繰り返して逃げてばかりいるわけにはいかない。)

 ディスプレイに西野の名前を表示させたところでふとある言葉が頭の中をよぎった。
 「気持ちの区切りもつけないで、次だ次だって口ばかり明るく振る舞っても、心がついていかないわよ」。
 母、裕子の言葉だ。

「気持ちの区切り……」

 頭に西野ではない別の男の姿が浮かび上がろうとしたその時だった。
 背後から無邪気な笑い声がして振り返る。
 笑い声は西野のクリニックから出てきた幼い少女のものだ。遅れて母親らしき女性が出てきた。
 時間外診療だろうか。疑問を浮かべながら母子を眺めていた次の瞬間、驚きの光景を目にすることとなった。

「パパもママも早くー!」

 母子から遅れて数秒後、西野クリニックから出てきたのは絵里が今連絡をしようとしていた西野だった。
 少女がパパとママと呼ぶ人物が、今絵里の目に映る少女以外の大人二人に間違いはないだろう。
 絵里は息を殺して、静かに建物の影に隠れその場を立ち去った。

 裕子の出迎えも耳に入らず無視して二階の自分の部屋まで駆け上がる。扉を閉めて大きく肩を上下させながら座りこみ呆然と床を見つめる。絵里は夢でも見ているような気分だった。
 フラフラと頼りなく立ち上がるとパソコンを立ち上げる。何も考えたくない。気を紛らわせたかった。
 新着メール一件の表示をクリックする。リアからのメールに少しずつ気分が落ちついてくるのを感じた。
 近況と自身の恋の話。そして年末に父親と日本に遊びにくるという内容。再会できるんだという喜びとともに頭によぎる男性の姿。先ほど裕子の言葉と同時に思い浮かべた人物と同じだ。

「……そっか」

 文末の一行を見て力ない笑みが漏れた。
 「パパ、再婚することになったよ」。

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