Beautiful Life ?
「25で結婚して地方に嫁いだ。都会育ちのチャラチャラした女だって田舎のお姑さんにあまり好かれてなくて夢に見たような幸せな結婚生活とまではいかなかったけど、好きな人と一緒に暮らす毎日はそれなりに幸せだった。でも1年経っても2年経っても子供が出来なくて。色々一人で検査に行かされたけど私に原因は見つからなくて……心が折れそうな毎日が続いた」

 ゆっくりと、しっかりとした口調で話す絵里の表情は無表情でただ一点をじっと見つめている。

「次第に夫婦仲も悪くなって夫との会話は減って、余計に子供なんて出来るわけなくて。不良品扱い、嫁失格。たくさん酷い言葉を浴びせられたけど、でも、辛い時には出会った時のことや幸せな毎日を夢見た婚約時のことを思い出してなんとか8年、頑張ったんだけど……」

 最後、小さくなる声。瞳に涙こそ浮かんではいなかったが、絵里の声は泣いているように震えていた。 

「夫の浮気発覚、浮気相手の妊娠。ダブルの衝撃にさすがにもう、頑張れなかった」

 俯いていた顔を上げて無理に笑顔を作る。

「期待してなかったけどさ。優しい言葉なんて。夫を浮気に走らせるのは嫁が悪いって。浮気相手の妊娠で私は不良品確定。最後まで向こうの家族の当たりは強かった。それで、お金もらってやっかいものの私は追い出されるようにして離婚してこっちに戻ってきたの。……今思えば頼りない人だったし喧嘩もいっぱいしたけど夫のことは愛していたし、落ち込んでいる時は励ましてくれて信じていたから。だから8年、頑張れた。それなのにあんな最低な仕打ち。もう二度とあんな思いしたくない。好きな人に、裏切らることなんて……」

 すべて言い終えて絵里は口を閉ざす。バッグから取り出したハンカチで顔を覆って鼻をすする。泣かないように必死な様子が伝わってくる。
 絵里は西野の視線をひしひしと感じていたが目を合わせることができなかった。西野はそのまま絵里をまっすぐに見据えたまま口を開いた。

「二度も裏切られたくないって。もしかして、俺が小坂さんを裏切るとでも……?」

 あの日確かに絵里は見た。西野が女性と幼い少女と穏やかに笑い合っている様を。そしてその幼い少女が西野のことをパパと呼んでいたことも。
俯き固く口を閉ざした絵里を見て西野は思う。

「……もしかして。俺が君以外の女性と幼い女の子と一緒にいるところを見た?」

 絵里は息を飲む。そしてゆっくりと頷いた。西野は軽く唇を噛み締めると小さく息を吐きながら俯く。

「辛い話を思い出させてしまってごめん。……俺のせいだ」

恐る恐る隣を見て、絵里はやっと西野の顔を見た。西野はまっすぐに絵里の目を見て言った。

「次に会ったら話そうと思っていたことが一つあるんだ。……俺も、過去に結婚していたんだ」

< 48 / 64 >

この作品をシェア

pagetop